無一文で放り出すのは良心が咎めるそうです
「…えっと、なんか、僕、これ欲しいとか言ってごめんなさい?」
「ユズリハ、その謝罪は方向性がズレてるよ?」
ばぁちゃんがすかさずツッコミを入れる。
「でもユズリハぼっちゃんのお陰で肩の力が抜けましたね」
タチバナさんも、ほうっと息を吐く。
「なんか、犯罪の匂いがしないでもないですが、お父上の捜索などは?」
「自警団に届けはしたが、夜逃げで自発的なもの、事件性はないと打ち切られて、俺自身じゃ探しようもねぇ」
フエゴさんは肩をすくめて両手を上げる。
「まぁ、そうですねぇ。ちなみに、お母上は?」
「母親は親父が料理人になるっつった時に、〝アタシが一緒になったのは鍜治屋だ!〞つって出てった。再婚して新しい家庭を築いてる。親父と会った形跡もねぇ」
もしやフエゴさん、孤独な感じ?
「うーーーん、センバ商会としては、仕入れしたものが、曰く付きかもしれないってことで、早く手放したい気持ちで一杯ですが、土地と交換…しかも、話を聞いてしまって、住んでる所を放り出させて金を貰って後は知りません、じゃ、後味が悪すぎますねぇ…」
タチバナさんは腕を組んで考え込んでしまった所で
「もし、本当に全てを捨てて、イチからやる気があるのなら」
カヤさんがタチバナさんの後ろから話始めたので、全員そっちを向く。
「この包丁を使って、センバダンジョン支店の従業員食堂、もしくはギルド酒場で働いて貰うのはどうでしょう?」
こてん、と首をかしげて提案してくれる。
「ああ、なるほど!その手がありますね!カヤ、さすがです!
フエゴさん、包丁代金として土地は頂きますが、ご自身もおっしゃっていたように、センバのダンジョン支店がそりゃぁもう好景気でして。
忙しい従業員の為に食堂を作ってまして。その食堂で働いて下さるなら、衣食住は、ほぼご用意できるかと。
まぁ、衣は制服だけですので、下着やプライベートの服はご自身でご用意願いますが、食は食堂でご自身の作ったものを、住は宿舎がございますので、そこに1部屋ご用意出来ます。
もしも、刺激が欲しいタイプで荒くれ者の相手の方が良い、と言うのであれば、ギルド酒場への推薦状をお出ししますよ。ギルド酒場でも人出は欲しいはずなので。多分、そこでも食と住は確保されてるはずです。
どちらでも、引っ越しのお手伝いはさせていただきましょう!いかがです?」
「乗った!!!従業員食堂で働かせてくれ!!!」
フエゴさんは身を乗り出してタチバナさんの提案に食いつく。
「おや、ドワーフなら酒場かと思いましたが」
タチバナさんは意外だ、という顔をして驚く。
「俺はあんまり荒事には向いてねぇ自覚は、ある」
頬をポリポリかくフエゴさん。
「フエゴさん、タチバナさんが店の外で初めて声かけてきた時、ばぁちゃんの後ろに隠れてたもんね!!」
「んなぁ?!チビすけ!!おまっ!それを!!」
「あー、確かに。フエゴにぐいぐい押されたねぇ。うん、ダンジョン帰りで気が荒ぶってるヤツラの相手とかしない方がいいよ」
ばぁちゃんもうんうん頷いている。フエゴさんは真っ赤だ。
「そうですか、そうですか!センバの従業員はいきなり暴れたりしないのでご安心下さい!では、センバダンジョン支店での雇用という事でよろしいですかね!
では、フエゴさんは日を改めて、雇用契約や土地の契約など詰めましょう!
良いご縁が出来たこと、嬉しく思いますよ!」
そう言ってフエゴさんとタチバナさんはがっちり握手をかわし、フエゴさんは帰って行った。
残された僕とばぁちゃん。
「あれ、フエゴさんの屋台はなくなったって事だよね?で、ばぁちゃん。僕たちのご飯と宿は?」
「あ。
…すまないタチバナ。宿と晩飯の良い案配の所、教えて貰えるかい?」
ばぁちゃんが額に手を当て天を仰ぐ。
「なんと!お宿の手配もまだでしたか!すぐ手配いたしましょう!カヤ!」
「承知致しました!最高級の」「ほどほどで!そこまで金は無いよ!」
「いやいやいやいや、こちらでご招待させてください!」
「ユズリハにあまり贅沢を教えないでくれ…野宿が大変に、街に入ってもグレードの低い宿にがっかりするってなったら、今後大変なんだよ、アタシが!!」
ばぁちゃんが、親指をビシっと自分に向けて言う。
「「な、なるほど…」」
勢いに負けたタチバナさんとカヤさん。
ばぁちゃん!僕は1回ぐらい贅沢してみたいよ!!!
ユズ フエゴさんの今後が決まって良かったね!
ブル まぁ、イグニスの孫だしなぁ…って、アタシらも旅の途中なんだがね?
タチ いくらでもご協力致します!!
ブル うん、まぁ、タチバナ達に会えたのもフエゴのおかげ、ってことで良いのか?
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