全財産
「ちちちち、ち、チビすけ!これは俺が買う!!」
「「「は???」」」
フエゴさんが、包丁を指差しながら僕に向かって宣言すると、ばぁちゃん、タチバナさん、カヤさんが何言ってんだコイツ、って顔でフエゴさんを見るけど
「なんで?!これは僕が見つけたの!!僕が買うの!!」
「いやユズリハもムキになるんじゃないよ。見つけたっていうか、店に普通にあったんだろうに」
あ、うん。普通に壁に飾ってたけど。
「なんだい、これは珍しい包丁なのかい?確かに2本対になってるようではあるが?まぁ、金貨1枚ぐらいじゃ、買えなさそうではあるわな」
ばぁちゃんが腕を組んで、タチバナさんに目線で説明を促す。
「はい、まぁ、ちょっと珍しい包丁というか…結論から言うと、包丁が使う人を選ぶんです。
魔剣ならぬ魔包丁でしょうか。
包丁に選ばれなければ、全く、まっっっっっったく切れません」
「使えなきゃ、ただの飾りかい?」
「おっしゃる通りで。まぁ、ですが魔包丁なんてそうあるものではないので、食指が動く好事家もいるんでしょうが、なんせ、包丁ですからねぇ。
なんって言うか、剣より華がないとでも言いましょうか。5年ほど前、うちに持ち込まれてからオブジェと化してますが、ユズリハぼっちゃん試してみます?」
「いいの?!」
オラワクワクすっぞ!
「ええ、切れなければ、諦めもつくのではないかと?」
タチバナさんが疑問系で提案してくれるが、
「ちょっと待っとくれ!」
ばぁちゃんが片手を上げてストップをかけてから
「…お高いんでしょう?」
両手を胸の前で合わせて、上目遣いでタチバナさんを見る。
「ばぁちゃん、なにそれ?」
「様式美だよ!」
ばぁちゃんが僕の両肩を掴み目を合わせて
「お高いものを試して何かあったら買い取れ、って払えなかったら困るじゃないか!こういう時はちゃんと聞いておかなくちゃダメなんだよ!
で、タチバナ、いくらだい?」
ばぁちゃんがグルンっとタチバナさんに首を向ける。
「…白金貨3枚です」
「ムリムリムリムリ、ムリだよユズリハ!!」
「白金貨って?」
「金貨10枚で大金貨。大金貨10枚で白金貨だ!つまり、金貨300枚必要なんだよ!」
「…むりだね?」
「まぁ、ユズリハぼっちゃんが買うというのなら、特別に!仕入れ値価格、白金貨1枚でお譲りしますよ?」
人差し指を1本立てて、にっこり笑いながら言うタチバナさんに
「「ムリムリムリ!!」」
僕とばぁちゃんの声が揃った。
「俺の店が!!」
いきなりフエゴさんが叫んだので、全員ビックリしてフエゴさんに振り向く。
「婆ぁの遺産で手に入った土地が、店がある!店はボロいが、土地なら!土地を売れば!その包丁買えないだろうか!!」
立ち上がり、拳を握りながら叫ぶフエゴさん。
「いや、アンタさぁ…住むところも無くして、包丁2丁が全財産っておかしいだろう?」
ばぁちゃんが呆れたように言う。
「その包丁持って、獣人の街へ行く。ダンジョンで好景気なんだろう?飯屋で住み込みで雇って貰えばいい!」
フエゴさん、必死だ。
「この包丁に魅入られたのかい?なら少し離れな。一旦店の外にでも出てなよ」
ばぁちゃんがやれやれって感じでフエゴさんに声をかける。
「違うんだ!それは、その包丁は、親父が持ってたヤツだ!!爺ぃの最後の作品、親父のために作った包丁だ!修行が終わって、一緒に店を切り盛りしたら、親父が認めたら、使わせてやるって言われたんだ!
でも!
親父が、騙されて、店取られて、居なくなって!
絶対その包丁もって夜逃げしたと思ってたのに、それが売れてるってことは、多分…、もう、親父は生きてない…」
「「「…はぁっ???!!!」」」
全員でフエゴさんを凝視する。
なんか、めっちゃ大事な包丁だったってこと?!
ブル これ、イグニスが作ったってことか!!アイツ、鍛冶出来たのか!ただの行き倒れたドワーフじゃなかった?!
フエゴ 失礼だな?!爺ぃはけっこう有名な鍛冶屋だったぞ?!
タチバナ まぁ、魔包丁作るくらいですから、ねぇ。ご存命ならば制作をお願いしたかった…
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