恭介
「やっぱり現実的には、そこっすよね」
「もちろん」
「俺、脚本家になりたいんすよ」
「いいと思うよ」
「その、なんつーか、収入って安定すんのかなって」
「それはやってみなきゃわからないね」
俺は心の中でため息をついた。大人はいつだって若者に希望を持たせる。しかし、そんな甘くないだろうことは俺が一番わかっている。
「だから、そんな甘くないんだよっ!!いつも正論ばかり振りかざしやがって!」俺は自分が抑えきれなくなって店を出た。やっぱり俺が直子の妊娠に納得行ってないのは、このよくわからない、ぼんやりとした将来のせいかもしれない。俺は行きあてもなく走った。
何十分走っただろうか。気づいたら細い川のある橋で呼吸が限界を迎えた。身体中から汗が滴ってきた。膝に手をついて息を整えていると、一人の女性が声をかけてきた。
「大丈夫?」
「ハァ、ハァ......大丈夫です」
「なんか事件でもあったの?」
「いえ......事件というほどでは......」
「それにしても顔色悪いよ?ちょっと相談に乗ってあげる」
「そんな、いいっすよ」
「いいから、いいから!」
「はあ」
二人で河原に腰かけた。お姉さんはカバンから水筒を取り出すと、お茶だよと言って分けてくれた。お茶はよく冷えていて、一気に飲みほしてしまった。お姉さんは笑いながら、おかわりを入れてくれた。
「すいません、全力疾走してたもので......」
「おやっ、それは一大事の予感」
「なんていうか、その......」
俺はお姉さんに悩みを話すかどうか迷った。でも、今の自分のモヤモヤは、上手く言語化できそうにない。俺が言葉を詰まらせていると、お姉さんの方から話し始めた。
「話すか迷ってるみたいだから、私の話をするね。彼氏がいるんだけど、なかなか結婚の話になると踏ん切りがつかない人でね、男の人はそういうのどう思ってるんだろうって」
俺にはタイムリーすぎる話題だった。いつも世の中は男女の行く末を案じているのだった。そう考えると、俺の悩みも案外普通で大したことないのかもしれない。俺は特別なんかじゃないと思うと自然と笑いが込み上げてきた。
「あ!笑った!ヒドイ!」
「お姉さん。俺の悩みも同じっすよ」
「あはは。そういうことね」
「お姉さん、名前は?」
「マユ」
「素敵な名前だ」
「ありがと」
最近、蕎麦ブームが来てます。蕎麦って毎日食っても飽きないですよね。




