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事故現場

「ダイハード並だな」

「なんすか、それ?」

「知らねえのか? 映画だよ。破天荒な刑事が主人公の」

「知らないッスね」

「お前と喋ってるとつくづく歳を取ったと実感させられるよ」


 伊藤は部下の八木と共に事故現場を訪れていた。

 崖から真っ逆さまに落ちた車は文字通りぺしゃんこにひしゃげ、九死に一生を得る事も叶わぬほどに悲惨な有様だった。


「まあ死ぬわな」

「ですね。乗っていたのはおそらく運転手一人。所持品から運転手は真下健一ましたけんいち、年齢二十八の男性のようです。東京の都会人がはるばる群馬のこんな山奥に何の用だったんでしょうね」

「さあな。肝試しか何かか」

「一人でねー。酔狂なご趣味なこったですね」

「ただの事故だとは思うが、万一の事もある。いつも通り、あまりに先入観に囚われすぎないように気を付けろ」

「ただの事故だと思っている時点で囚われてますよね?」

「ムカつくが、お前のそういう所は悪くない。さっさと調べるぞ」

「承知」


 二人はブルーシートの上に寝ころばされた死体を見下ろした。強固な車のボディがあの様だ。その中にいた柔肌の人間がどうなるかは想像に難くない。しかしいくら仕事柄慣れているとはいえ、実際にその有様を目の当たりにすれば決して気分の良いものではない。

 全身がぐしゃぐしゃに折れ曲がり、顔も判別がつかぬほどに潰れている。これももともと生きていた人間なのだ。どれだけの衝撃が身体に加わったのか、死体はその凄まじさを物語っていた。

伊藤は死体の傍に屈みこむ、頭からつま先まで隈なく視線を行き来させる。


「……ただの事故だな。間違いなく」

「ですね」

「ちゃんと見たのかお前?」

「見ましたよ」

「そうか。気になるところは?」

「ないっスね」

「あっそ」

「先輩はどこか気になりますか?」

「……いや」

「じゃあ、後は鑑識に任せましょうか」

「とりあえずはな」

「なんか、歯切れ悪くないスか?」

「そうか?」

「はい」

「気のせいだと思え」

「じゃあ気のせいじゃないって事ですね」

「気のせいだと思いたいんだよ」

「……どういう事スか?」

「場合によっちゃ話してやるよ」

「よく分かんないスけど、楽しみにしてます」

「楽しみにするもんじゃねえよ」 


 八木は伊藤の態度を不審に思いながらもそれ以上の追求をやめた。

 伊藤の顔は渋いままだった。それは自分が今感じている事に論理的な説明がつかないからだった。


 --だとしたら、俺らにはどうしようもできねえんだよな。


 伊藤はこの時点で、この事故の結論が自分の手に負えないものである事をどこかで確信していた。


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