レイヒー
〈今回も雰囲気あったなー〉
〈怖すぎだろ〉
〈14:53あたりの声なんだったの?〉
〈あれヤバすぎ〉
〈聞こえたか? 風の音とかじゃね?〉
〈イケヨって女の声確かに聞こえた〉
〈いけってどこにだよ〉
〈死ねよにも聞こえた〉
〈ってか他にもいろいろ映ってたしな〉
〈え、マジ?〉
〈なんにしても、そろそろ呪われんじゃねレイヒー〉
〈前の録画にも変なの映ってたり声入ってたしな〉
いい感じだ。
撮り終えた配信のコメントを見返して俺はほくそ笑んだ。
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「まあ、こんなもんか」
大手配信者には遠く勝ち目のない数値だが、俺みたいな人間にしては上出来だ。
ちょっと前まではそんな小難しい事自分には出来ないと思っていたが、手軽にネットで様々な事が配信出来るようになった昨今。今やそれを生業にする者まで現れているが、自分はそこまで心血を注いで配信しているタイプではない。
あくまで娯楽、息抜き、趣味の範疇で週末の休日にのんびりとやりたい時にレイヒーという名義で配信をしている。
ちなみにレイヒーは、霊と暇人を組み合わせてつけた名前だ。
内容は心霊系。昔から怖いものが好きだった。嗜好は大人になっても変わらず、今では一人で心霊スポットに突撃するまでに至っている。
今までは凸った内容をブログに写真や記事に残すに留まっていたが、dayLiveと呼ばれる動画配信アプリを使って自分と同じように配信している人間を見て、これは面白そうだと思い、今ではそちらに切り替えている。
「14:53……」
残した録画枠を再生し、声がしたとコメントが来ていた箇所に再生バーを合わせる。
今回のスポットは昔一家心中があったと言われているとある村の廃民家だった。ざっざと地面を踏みしめる音と静寂の中に木霊す虫の音や夜風の音は、本来は夏の涼し気な夜を演出してくれるはずが、忌まわしき場所の空気のせいか全てが不気味に不穏に聞こえる。
そういった空気感が録画内にもしっかり内容されている事に満足しつつ耳に神経を集中させる。
「うわあ、ここはほんとにヤバそうだな」
そう俺が呟いた直後にそれは入っていた。
……ルヨ。
――これか。
それは声とも、自然の何かの音が声に近しいものとなっているものとも思えた。つまりそれほど明瞭なものではなかった。
「聞こえるっちゃ、聞こえるよな」
だが動画としてはそれで十分だ。配信が盛り上がるポイントにはなってくれる。より理想的なのは、ここで現地にいる時に俺がこの声らしきものを察知し、「なんか今聞こえなかったか?」なんてリアクションを取れば尚良しだったが、残念ながら今回実際に現場でそういった声が聞こえる事はなかった。
「イルヨ」
残されていた女らしき声を真似てみる。案外似た声が出せて自分で笑ってしまった。
「んーーー」
ぐーっと伸びをする。
趣味とはいえ、夜中に車で遠出からの配信というのは疲れる。
しかしやめられない。心霊スポットを訪れ、現場の空気を肌で感じる。あの独特な緊張感と高鳴りは、自分にとって強烈な中毒性を持ち完全に全身にその毒は回り切っていた。そして今まで一人で満足していた事を、今は配信を通じて共有する事が出来る。コメントで反応がもらえる事は自分が思っていた以上に楽しさを増幅させ、俺の心を満たしてくれた。
「寝るか」
明日はゆっくり休もう。それが終われば、また社畜の日々か。
くだらねえ人生だ。




