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人助けをしたら、私にだけ優しい王子様にとんでもない執着をされてしまった  作者: 園内かな


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7.二人きりの舞踏会


 エミリアを見ると、ルーファスは立ち上がり、ゆっくり近づいてくる。そしてごく当然のように手を差し出してエミリアが手を取るのを待った。

 エミリアも、戸惑いながらも彼の手を取る。

 ルーファスは手の甲に唇を押し付けてそしてにっこりとして言った。


「よく似合っている。本当に綺麗だ、エミリア」

「あの、ありがとう……」


 エミリアにはそれを言うだけで精一杯だった。

 最初は大広間の様子に驚いたが、正装したルーファスは目が釘付けになるほど美麗だった。白の衣装に金の刺繍がされた物は、きっとルーファス以外の人が着ると凡そ滑稽に見えることだろう。

 エスコートし、テーブルに導きながらルーファスは囁いた。


「そのドレスは俺の瞳の色で、宝石は髪の色を現している」

「っ……」


 それはまるで、エミリアはルーファスのものだと宣言しているかのようだった。どぎまぎとしてしまい、エミリアは何も言えない。

 二人が席に着くと、熟練の給仕がワインの好みを聞き、料理の説明をしてくれる。

 エミリアは全てルーファスにお任せし、ルーファスは適宜給仕に指示をしながら快適な空間を作ってくれた。


 楽団の演奏を聞きながら、美味しい夕食とワインを頂き、そして王子様であるルーファスが隣に居る。もうなんだか、エミリアはふわふわしてしまって、よく分からなくなってしまった。何を食べたかも覚えていないままに、食事は終わった。


「少し踊ろうか」

「踊りは……、ちゃんとした物は、した事がないの」


 荘園で音楽に合わせて踊ったりしていたが、伝統的な庶民のダンスだ。正当な踊りを習ったことなどない。

 エミリアは二の足を踏んだが、ルーファスは構わなかった。


「それでいいよ。俺に任せて」


 二人はホールの真ん中に立ち、寄り添いあう。彼に密着してドキドキするが、それよりちゃんと踊れるのだろうかという緊張の方が打ち勝つ。

 エミリアが真剣に踊ろうと集中していると、ルーファスはくすりと笑って言った。

「そんなに気を張ることは無い。俺たちだけしか居ないのだから。もっと気楽に俺に頼って」


 彼にとっては演奏している楽団や使用人たちは、居ないことになっているらしい。やはり貴人は召使いなど人の数に入れないのだろうかと、そんな認識の差を感じてしまう。

 それでもダンスが始まり、腰を抱かれて胸が付くほど密着すると、エミリアはどぎまぎしか出来なかった。だが、ルーファスが楽団に合図して音楽が変わると、緊張は楽しさへと変わっていった。ルーファスに着いて行って、一緒に動いて回るのが楽しい。彼に任せていると、心配事など無くて安心出来るような気がする。


「上手いじゃないか」

「ふふ、それはルーファスのリードが上手だからよ」


 くるくるとホールを回って一緒に踊ると、時間が経つのも忘れるほどだった。

 彼と再会してから初めて心から笑い、楽しみ、そしてエミリアの息が切れてしまったのでダンスの時間は終了となった。

 最後に一曲、ゆったりとした音楽に身を任せて二人はゆらゆらと密着しながら揺れていた。


「こんなに楽しい食事は、久しぶりだ。いや、初めてかもしれない」

「私もよ、ルーファス。今日は本当にありがとう」


 彼は忙しいから、招待されたとはいえ明日からは顔を見られないかもしれない。それが当然の身分だ。

 だから、今日のこの、二人だけの舞踏会を一生の想い出にし、絶対に忘れないでおこう。

 そう心に刻んで、彼の温もりを甘受した。


 ルーファスは、ほんの気まぐれでここに自分を呼んだだけだろうし、それに命の恩人だと思われているからお礼の一環なのだろう。

 勘違いしてはいけない、エミリアはそう自身を戒めた。やがて、宴は終焉を迎える。



「すまない、少し雑務があるんだ」

 ルーファスがそう言って退室しようとする。エミリアは頷いて、彼を見送った。


「おやすみなさい。今日は本当に、ありがとう」

「ああ、おやすみエミリア」



 彼が大広間を後にしてから、エミリアも続いて退出する。与えられた部屋に戻ると、そこにも侍女が居てエミリアを待っていた。ドレスを脱がされ、髪を解かれ、そして化粧を落とし入浴させられる。疲れ果てたエミリアはされるがままだった。

 着せられたナイトウェアがやけに薄くフィットする生地で、胸も下着も透けて見えているのが気になったが、シルク素材の高級な物はこんな物なのかとも思う。

 ようやく寝室に案内され、侍女たちが出て行く段となった。彼女たちも遅くまで付き合わされ、大変な思いだったに違いない。


「今日はありがとう、ご苦労さま」


 扉の前で頭を下げる彼女たちにそう声をかけると、少し驚いたように顔をあげたが、再び礼をして去って行った。


「ふぅ……」


 バタンと扉が閉まった瞬間、思わずため息を吐いていた。

 やっと一人になれたからだ。

 今日は、本当に色んな事があった。

 朝早くに家を出て、国境を越えて城に来て、晩餐会と舞踏会を二人きりでして……、とにかく疲れてくたくただった。ベッドに横になるとすぐにでも寝入ってしまうことだろう。

 ゆっくり休もうと、エミリアがベッドに入った時に扉は開いた。その人物は臆面もなく入室し、エミリアを見て声をかける。


「やあ、そのナイトドレスもよく似合っているよ」

「ルーファス! どうして?」


 エミリアはさっと胸元を上掛けで隠して彼を見つめた。一応、エミリアだって嫁入り前の娘だ。夜、寝室で男と二人きりになるというのはよろしくない。


「どうしても何も、ここは俺の部屋だ」

「えっ! そうなの……?」


 驚いて周囲を見回す。確かに、物凄く豪華な家具が揃った広い部屋とは感じていた。けれど、離宮全体が素晴らしい造りだったので、全ての部屋がこれ位の物だと思いこんでいたのだ。

 エミリアは慌てて口を開いた。


「ここで休むよう案内されたの。何か間違えてしまったみたい。すぐに移動するわ。支度をするから少し待ってもらえるかしら」


 何か上に羽織る物を探して、部屋を教えてもらって動かなければ。そう思って言ったが、ルーファスは不敵な笑みを浮かべたままだった。


「間違いではないし、出て行く必要もない。俺の寝室に、君を招待したのだから。今日は俺たちの初夜だよ、エミリア」

「えっ……?」


 聞き返さずにはいられなかった。

 初夜だと、そう聞こえた。

 けれど、結婚もしていないのに寝室を同じにするなんて。噂には聞いたことがある愛人とか、愛妾とか、そんな立場のような物ではないか。

 目を見開いてルーファスに視線を送る。彼が冗談を言ったとか、何か理由があってそう告げたのではないか、すぐにでも取り消してくれるのではないかと期待する。しかし、ルーファスはつかつかと寄ってきて上着をばさりと脱いだ。


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