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人助けをしたら、私にだけ優しい王子様にとんでもない執着をされてしまった  作者: 園内かな


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26.反乱


 彼はただ静かに、ずっと待っていた。

 己が撒いた種が芽吹き、実がなり、そして手中に収まるのをただ待っていたのだ。そして、その一報は彼の計画通りに舞い込んだ。

 式典の最中だというのに、王宮の兵士らしい男が大聖堂の中に駆けこんできた。

 皆は怪訝な顔で、誰が何のために来たのかと胡乱げに見守る。

 駆け込んできた兵士は最前列まで転がるように駆けて、膝をついて大声を出した。


「ほっ、報告! 報告いたします! 失礼いたします!」

「何事だ」


 ルーファスが尋ねる。兵は息も荒いまま応えた。


「お、王城に! 敵が迫っております! 北方より市街地に侵入した賊は、住民を殺戮、街に灯を火を付け一直線に城を目指しているようです!」

「敵の数と正体は?」

「数は凡そ三万! 敵は、王国権力の転覆を狙う無国籍軍、のようです! どの国の国旗も持たず、軍らしい統制はありませんが、勢いが止められません!」


 報告が聞こえた前方に居る物は皆、ざわつき一様に話しだした。

 まさかそんな、本当なのか、何故……。

 そこにすっくと立ち上がったのは宰相、サディアスだった。彼は朗々と響く声で言い放った。


「今、王都に危機が迫っておる! 侵入した敵は王城を目指し行軍だが、その敵を止める騎士団の大半は西方、メイナード国との国境に向かっておるのだ!」

「なっ、なんと!」

「反乱かっ!」


 皆がざわざわと動揺する中、サディアスは落ち着き払って続ける。


「すぐにでも賊軍鎮圧の軍議と、此処に居る皆々様の避難を始めねばならぬ! 立太子の儀は中止だ!」


 どよめきの中、サディアスの宣言が場を支配する。

 エミリアは胸が潰れそうだった。まさか、こんな風にしてまで中止に追い込むなんて。

 それに、罪もない一般市民が犠牲になっているらしい。なんて事だろう。

 エミリアがぎゅっと胸の前で両手を握り合わせていると、ルーファスの頼もしい声が聞こえた。


「立太子の儀は最後まで行う。中止にはしない!」


 はっとして、エミリアはルーファスに視線を送った。

 彼は諦めた表情ではなかった。それどころか、瞳に強い意志が煌めき今から闘おうと言わんばかりだ。

 サディアスがキッとルーファスを睨み付けたが、すぐに王へと視線を転じ威圧的に言う。


「王よ、ご決断を。早く避難と軍議を開始しなければ大変なことになりますぞ!」


 サディアスが何か言った時、王は常に『よきにはからえ』としか答えなかった。それは皆も周知の物であるし、当然、今回もその答えが王の口から出ると皆は信じて疑わなかった。

 果たして、王の口から返答があった。


「座れ、サディアス。立太子の儀を続ける」


 だから、王の言葉がそんな物になるとは信じられなかった。誰もが、サディアスさえも耳を疑った。


「今、なんと?」


 聞き返すサディアスに、王は飄々と答える。


「聞こえなかったのか? 立太子の儀を続けるから早く座れ」

「これはこれは。ご自分が何を言っているのかお分かりですか? 今、王国は存亡の危機。三万の敵兵を止めるには、王城の兵士だけでは足りないというのは理解できますかな」

「それは分かっている」


 王の答えに、サディアスはどうしようもない暗君に説くような説明を始めた。


「それでは、兵を呼び戻しどう敵を迎え撃つか決定しなければいけないというのも分かる筈。王城まで戻す時間が無ければ、この大聖堂が戦いの場となってしまいますぞ。この神性なる大聖堂で、来賓の方々がいらっしゃる場を戦火の海となされるつもりか。歴史に名を残す王となられるでしょうな、勿論悪名という意味で」


 その問いに応じたのは王ではなくルーファスだった。フッと不敵に笑って口を開く。


「お前の案は、西に居る軍事司令とライナス騎士団を呼び戻すのみか。そして合流する為だと俺たちにも西に移動することを提案し、混乱の中暗殺する……」

「何の話ですかな」

「他にも手はある、という話だ」


 ルーファスの話にとぼけながら、サディアスは堂々と問うた。


「では伺おう。一体どんな手があるのだ? この大聖堂に守備を割き、王城の兵は三千にも満たない。その三千で三万に打ち勝つ方は?」

「王城の兵は、三千ではない。一万の兵が待機している」


 サディアスがまさか、と疑るような表情でルーファスを見つめている。

 彼の知る所では、そんな兵の動きは無かったからだ。軍事司令の命も無く、立太子もしていない王子の一存でそんなことが許される訳がない。

 そして、軍事司令は命令の全ての兵の動向を宰相に報告している。だから、ルーファスに兵を動かすことは不可能な筈だ。


 そこでふと、サディアスは目を王に転じた。

 いつになく強い視線は、いつもの彼の愚兄……、何の役にも立たず、ただ血筋だけで王座に留まっている無能な王らしくなかった。

 その王が口を開いた。


「勅令だ」

「なんだと……!」

「南の守備兵を王城に移動させるよう、王印を使った」

「貴様ッ! 勝手にそんなことをして許されると思っているのか! 責任問題だぞ!」


 激高するサディアスに、王の飄々とした態度は変わらない。

 ルーファスも不敵な笑みのまま口を開く。


「地が出ているぞ、宰相。それに、移動させたのは南の兵だけではない。東の、エルトワ王国との国境に居た兵も一万、既に王城目指し行軍している」

「そんな勝手が許される訳がないっ! もしエルトワが攻め込んで来たらどうするつもりだ!」


 サディアスの詰問にも、ルーファスの落ち着きは失われなかった。

「それはない。エルトワ王国が出兵する事はない」

「何故そう言いきれる?」

「何故なら、エルトワ王国出身の娘を王太子妃とすると使者を送ったからだ。我が二国間には、既に強固なる同盟を結んである」


 突如、エミリアに視線が集中した。

 エミリアは内心どぎまぎとしたが、怯むわけにもこのままここで時間を取らせるわけにもいかないと思う。その気持ちを座ったまま、口をした。


「皆様もご着席ください。立太子の儀の続きを」


 サディアスが納得出来ないように言う。


「勝手な事を! 後できっちり糾弾させてもらおう。それに、その兵が全て動いたとしても、敵三万に対し二万だ。勝ち戦になるかどうかは、大いなる賭けだろう」

「いいや、勝てる!」


 ルーファスは自身満々に言い放ったのだった。


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