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人助けをしたら、私にだけ優しい王子様にとんでもない執着をされてしまった  作者: 園内かな


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27.防衛線


 王城を前にした前線の激戦区。そこに、ヒューゴーは居た。

 大聖堂までルーファスたちを護衛した後、すぐに王城近くの市街地まで引き返していたのだ。彼は騎士たちを率いながら激を飛ばす。


「もうすぐ東の国境から応援部隊がやってくる! これ以上敵を中に入れるな!」

「おぉ!」


 それぞれに敵と戦いながら、兵士たちは一同、昨日の夜城内に集められルーファスが激励に来たことを思い出していた。

 ここに集められている兵士の大半は、南方に駐屯している戦闘経験のある者だ。南方の国境では小競り合い程度だが争いが何度かあった。

 その経験を見越して、ルーファスと王は市街戦の主力として兵士たちを呼び寄せたのだ。


 だが、叩き上げの兵と云わばエリートである王城の近衛騎士たちとはまるで接点がない。むしろ反目し合いそうな勢いだった。

 近衛騎士たちは不作法でがさつな兵たちに眉をひそめるし、南方の兵たちにとっては実戦経験の無いお坊ちゃまたちなど足手まといにしかならないと軽んじる。


 そこに、ルーファスから話があると昨日の夜、城内の広場に全員が集められたのだった。

 南方の兵たちは、王子という物がどんな顔をしているのか見てやろうという野次馬気分であったし、近衛騎士たちは余計なことをされても困ると口には出さないが渋々集っていた。

 そんな雰囲気の中、現れたルーファスだったがやはり皆はおお、と目を見張った。

 王族の威厳は、彼の話を聞こうと兵たちに思わせたのだ。それを見越したように、ルーファスが口を開いた。


「ヴィレカイム王国王子、ルーファスだ。先ずは勅令に応じ王都に駆けつけ、反乱軍鎮圧の任に就いてくれた事に礼を言う」


 一万の兵と騎士たちは皆、ざわりと肌を粟立たせた。

 反乱軍の鎮圧に王都へ、という事は明日、おそらく百数十年ぶりにこの地が戦場になるという事だ。

 そもそも、反乱軍が現れるやもしれない、という話は上層部の士官クラスにしか伝えられていない。戦場では、末端の歩兵などには一々状況説明などなく、命令のみが下される事が多い。

 それを、この王子は何を言おうとしているのか。皆が姿勢を正し耳をそばだてた。


「明日、恐らく王都に二万から三万程度の兵が襲撃するだろう。奴らの狙いは王城、そして大聖堂だ。国家転覆を企む、反政府軍と謳っているが実態はただの盗賊、略奪者の類だ。その反乱軍を、この一万の兵力で抑えなければいけない」


 皆、固唾を飲んで聞いている。ルーファスは続けた。


「事が起こるまでに兵を動かすと、その手薄になった場を攻め込まれるかもしれない。それ故、東方からの応援部隊は明日しか移動出来ないのだ。しかしこの場に誰も配置しなければ、罪の無い王国の民たちが無数に命を失うことになる」

「まさか、その為に我らを……!」


 南方の兵士の一人が礼儀知らずにも声をあげる。しかしルーファスは咎めるでもなく頷いた。


「そうだ、だから南方の一部の兵を極秘で移したのだ。皆には反乱軍を抑えると共に、王都の民たちを守ってもらいたい。その為に、国で一番戦歴のある経験豊かな南方の兵士たちを迎え入れたのだ」


 おおお、と兵たちがどよめく。

 王族などという物は、何も知らず呑気に王都で暮らしている物だと思っていた。

 まさか、自分たちが戦いを繰り返していた事をこの王太子が知っているとは、と不思議な実感をしたのだ。それは、まるで王子に認められたかのような高揚感を南方の兵に与えた。

 そしてルーファスは続ける。


「ただ、本日召集した南方の兵は土地勘もなく、王都の市街地での戦闘は未経験だ。指揮に当たるこの近衛騎士団の命を受け、従ってほしい。この者たちは、俺が数々の暗殺を仕掛けられたのを防いでくれた手練れたちだ。彼らが居なかったら、今この場に俺は居なかっただろう」


 近衛騎士たちは、王子がこんな風に思っていたとは初めて知った。ルーファスがそんな話をしたのは初めてだったからだ。光栄な事だと胸を張る。

 南方の兵士たちも、エリート騎士が城内でぬくぬくと暮らしている訳ではなく、陰謀渦巻く世界を切り抜けてきたのだと、自身にはあまり無い知力という物を感じ入った。

 兵たちがお互いを認めた瞬間だった。

 ルーファスはさらに続けた。


「本来なら、俺も共に戦わなければいけないのだろう。しかし、俺にも別の戦いが待っている。大聖堂で、また違う戦いに身を投じることになるのだ。だが、心は共に在る」


 ルーファスの鼓舞に、皆は乗った。騎士たちの気力は満ち溢れていた。

 そしてその気力と団結のまま、戦いを迎えたのだ。士気は高く、誰もが一歩も引かない。

 これはいける、持ちこたえられるという手応えがあった時に、敵の背後から歓声とヴィレカイムの王国旗が立ち上がった。援軍が間に合ったのだ。烏合の衆である反乱軍が逃走するのも時間の問題だろう。

 ヒューゴーは大声で指示を出した。


「将官クラスは生きたまま捕えろ! 尋問して黒幕を吐かせる!」


 ヒューゴーは、この勝利の内の一部はルーファスの演説のお蔭でもあると理解していた。ルーファスが話をしなければ、勝てたかもしれないが苦戦は免れなかっただろう。彼のお蔭で皆が一致団結出来たのだ。

 そして、ルーファスの変わり様に驚きもあった。今までのルーファスなら、それが仕事だと、その分の報酬は支払っていると冷淡に言い放ったことだろう。彼が変わった原因ははっきりしている。

 エミリアだ。


 ヒューゴーは当初、ルーファスがエミリアを迎え入れた事に賛成出来なかった。王家というのは血筋も重要視すべきだ。国内の高位貴族か、他国の王族からルーファスのお妃を迎え入れた方が権力の強化にもある。そう思っていた。

 しかし、ルーファスは変えられていった。温かなエミリアに溶かされるように、人の心を取り戻していったのだ。

 その変わって行く過程を見ながら、内心穏やかでは居られなかった時もある。

 今から思えば、ルーファスの変化に戸惑い、心配だったのだろう。自分たちは何も変わらないまま、主の内面が少しずつ変わっていくというのは不安を覚える物なのだ。


 図書室でエミリアについての話を本人に聞かれてしまった事もあったが、彼女は騒ぎ立てたり、ルーファスに言い付けたりせずに耐えていた。でもそんな噂があったとルーファスに詳細は伏せて尋ね、誤解を解きあったらしい。

 もし二人が不仲になってエミリアが母国に帰るとでも言い出せば、今この状況はあり得なかった。そう思うと、その原因となる所であったヒューゴーは背中に冷たい物が伝う。本当に、全てが良い方へと動いて良かった。


 エミリア付の侍女であるホリーがエミリアの事を庇った時は、ルーファス同様誑かされてしまったのかと失礼な態度を取ってしまった。ホリーは気分を害していたようで、あの後は話しかけてもそっけない返事しかもらえなかった。それでもエミリアの近況を尋ねると、彼女は穏やかで波風を立てないような性格であるが、ルーファスを諌める事もある芯の強さを持つ女性であると言っていた。

 今なら、ヒューゴーもその意見に賛成だ。ホリーには悪い事をしてしまった。後で何か話せたらいいのだが。


 主を護る事こそ騎士の誉れ。金の為だけに仕えている訳では無い。

 欲しいのは名誉だが、それ以上に、主に認められ、それを言葉で伝えてもらえるのを渇望していたのだとヒューゴーは初めて知った。

 それを与えてくれたのはルーファスだが、彼をそのように変えたのはエミリアだ。以前のままのルーファスだったら、絶対に昨日のような演説はしなかっただろう。

 今頃、ルーファスとエミリアも別の戦いと場となっている大聖堂に居るだろう。願わくば、此方でも向こうでも完全なる勝利を。

 ヒューゴーはそんな事を願った後、再び前線指揮へと意識を戻したのであった。



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