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人助けをしたら、私にだけ優しい王子様にとんでもない執着をされてしまった  作者: 園内かな


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22/25

22.婚約発表


 明日はいよいよ立太子の儀という前夜に、舞踏会は開催されていた。

 ルーファスがエミリアを離宮に迎え入れたあの日、彼は二人だけの晩餐会を開いてくれた。それが、エミリアが知る唯一で一番豪華な晩餐会だった。

 が、今日の舞踏会はそれより格段に素晴らしい。


 大広間には、明日の儀式に参加する為に王都に集った数多の貴族や王族が談笑している。皆が着飾り、美しい衣装を競い合っているようだ。

 エミリアがルーファスに伴われて大広間に現れると、楽団の音楽は止み、皆がひそひそと囁きながら注目した。

 二人の後に王も入場する。皆が静かに姿勢を正し、主君を見つめた。その視線を受け止めながら、王は皆に宣言した。


「明日の立太子の儀の前に、一つ良い報せがある。私に娘が出来たのだ。王子ルーファスがこの度、婚約する運びとなった」


 エミリアがは微笑んで膝を折って礼をしたする。内心は心臓が早鐘を打っている。

 ついに、本当に婚約発表が成されてしまった。このまま本当に結婚という事になってしまうのか、それとも国王陛下か誰かの横やりで婚約破棄になってしまうのか、エミリアには分からない。


 ただ、もう後戻り出来ない状況になってしまったのは間違いない。エミリアは、ルーファスを信じて彼の横に立つしかないと、隣に居るその人をじっと見つめた。

 ルーファスがそれを受けて一歩前に出た。


「皆にエミリアを紹介しよう。彼女は幼い頃、毒蛇に噛まれた私を助けてくれた命の恩人でもある。それ以来、俺たちは文通で愛を育んできた……」


 おお、とどよめきがあった。政略結婚や派閥争いの絡む関係ではなく、愛という言葉をルーファスが使ったせいかもしれない。

 そんなざわつきの中でも、ルーファスの声はよく通り心地よい響きを放っていた。


「彼女は温かな人柄で、控えめだが俺を支えてくれる芯の強さもある。明るく庶民的な妃は国民にも好意的に受け入れられるだろう」


 すぐに王が引き継いで言う。


「勿論、我々王族もエミリアを歓迎している。ようこそエミリア」


 その言葉が切欠で、皆が拍手を始めた。大広間全体を包む歓迎の拍手だ。エミリアはどきどきしながら会釈を繰り返した。

 それからすぐに、楽団が演奏を再開し踊りが始まった。勿論、最初のダンスはルーファスとエミリアだ。二人が踊り始めると、皆も次々ダンスフロアに行って二人の周りを優雅に漂い始める。最初の紹介としては上出来だった。

 その後も和やかにダンスと談笑は続き、エミリアは皆に受け入れられたようだった。



「失礼します! アストリー侯爵家の皆さま、及びフリント辺境伯が御来訪です!」

「中立を貫いておられた、ギャルビン家の皆さまも顔を出されています!」


 従僕が次々とルーファスとその周辺の重臣に報告をしている。今までどちらにも属さない有力な一族や、今後の方向を決めかねていた実力者が顔を出しに来ているようだ。

 王と王子が手を組むとなれば、やはり人は集まる。それも、気楽に参加して欲しいと誘われた舞踏会だからだ。ここから取り込めるかどうかはルーファスの手腕による物だろう。

 どうやら、ルーファスが直接話をした方が良い有力者がやって来たらしい。

 王がにこやかにルーファスに言った。


「エミリアの事は私が見ておこう。行ってくると良い」


 ルーファスは不信の瞳で父を見返す。だが、その間にも次々と賓客がルーファスと話そうと取り囲んでいる。渋々、彼は了承した。


「くれぐれも、彼女の事をお願いします。もし彼女に何かあれば……、分かっていますね?」


 ルーファスは笑みを浮かべたまま、恐ろしい気配を漂わせている。だが父王はまともに取り合わずいなしている。


「分かった、分かった。エミリアから目を離さないでおくから」

「エミリア、気を付けて。嫌ならこの男から離れても良いが部屋からは出ないように」

「ええ、分かったわ」


 ルーファスが人の波に紛れ込んでしまうと、『この男』呼ばわりされた王はにっこりとして言った。


「では、何をして過ごそうか。ダンスでもどうかな」

「いえ、それは……」


 婚約者の父とダンス、しかも相手は国王ともなるとエミリアには畏れ多い。


「では、話をしよう。ルーファスの昔話など」


 次の提案には、エミリアも心惹かれた。聞いてみたいと頷く。


「お聞かせいただけると、嬉しいです」

「では、座ろうか」


 広間を見渡せる上座の一段上に、玉座が設えてある。その隣には、ルーファスとエミリアが座る席もあった。そこに王と共に着く。周囲には護衛の兵士も居るし、これなら変な人に絡まれたり、外に連れ出されるという事もないだろう。

 王が語り始めた。


「ルーファスは、幼い時から聡く物分りの良い子だったよ。きっとこの王子は、後の賢王になるだろうと思わせるほどに」

「そうですか」


 やっぱり、という気持ちだった。ルーファスなら子供の頃からよく出来た子だったと思う。でも、それは小さな心の中にある肉親や誰かに甘えたいという気持ちを押し殺しての事だろう。

 それを分かっているという風に、王も頷く。


「だからこそ、私の手元に置いてはいけなかったと理解してほしい。私には他人を守る力など無かった。育てようとしても、途中で横やりが入るか、最悪二人共々暗殺されただろう」

「そう、ですね……」


 以前もそんな話をしていた。王は、ルーファスを想って距離を置いたと言う。

 だが、ルーファスはそれによって一人暗殺の憂き目に合ったと未だに不満を持っているようだ。

 どちらも間違っていないし、王の判断も正しいのだろう。けれど、ルーファスに肩入れしてしまうエミリアとしてはどうしても彼を気の毒に感じる。


「親としては酷い物だと思っているだろうね?」

「いえ……」


 思ってはいても、「そうですね」とは言い難い。またしても口を濁すエミリアに、王はふっと笑って言う。


「成長してから急に可愛がりたいと思っても、なかなか難しい物でね」


 エミリアはそこでピンと来た。


「仲良くなりたいと思っていらっしゃるのですか?」

「勿論。君に取り持ってもらえたら嬉しいよ」

「それは、出来ることであれば致しますが……」


 なかなか、ルーファスのあの態度では難しいだろう。突然に距離を詰めるのは大変だろうが、時間をかけていけば雪解けはあるだろうか。


「しかし、私だけではないようだね。ルーファスと仲良くなりたいのは」

「え……?」


 その言葉に、視線をルーファスに転じる。人ごみの中にひときわ目立つ赤のドレスを着た女性が、ルーファスに擦り寄っているのが見えた。


「あれは、アストリー侯爵家のご令嬢だよ。長らく中立を保っていたが、今日は様子を見に来たらしい。私とルーファスが協力体制を持ち、かつ娘が王妃になれるなら協力しても良い、といった所かな」


 王の説明に、彼らの周りは全てが政治的な意図を持った言動で彩られているのだと改めて実感する。それが当然の世界なのだ。エミリアには全く馴染みが無いし、これからも馴染めないような気がする。

 そんな事を考えながらルーファスを見つめていると、王は少し可笑しそうに口を開いた。


「案外冷静だね。もっと、嫉妬したり悲しそうにするのかと思った」

「いえ、この雰囲気に馴染むので精一杯です」


 エミリアはそう答えながらも


(陛下はやはり、お人が悪い……)


 そう感じていた。お人よしでは何の後ろ盾も無い少年王が今まで在位出来なかっただろうが、なんというか、人を食った所がある。今もエミリアを焚きつけて観察しているようだ。

 この一筋縄ではいかない王と、王に反発する王子の間に挟まれる事になるとは。なかなか、間を取り持つのは簡単ではいかないだろう。

 そんなエミリアの考えを分かっているのか分かっていないのか、王は朗らかだ。


「ではエミリア、私とルーファスの母、私の妃の馴れ初めを教えてあげようか」

「それは、伺ってみたいです」


 エミリアも年頃の娘だ。そういった話題は興味があるし、この王とルーファスの母との話だ。否が応でもそそられる。

 思わず王の方に耳を傾け、一生懸命聞こうとするエミリアに、彼は語りだした。


「あれはもう何年前になるだろうか。少年王であった私も年頃になり……、おっと。時間切れのようだ」

「えっ」


 今からなのに。

 一体どうして、と王を見つめるエミリアに、後ろから低い低い声が聞こえた。


「随分楽しそうだね、エミリア」

「る、ルーファス……、驚いたわ。話は終わったの?」


 つい先ほどまで有力貴族のご令嬢と、割と離れた場所で談笑していた筈なのに気が付けばすぐ背後に居たのだ。

 エミリアは、彼のその圧迫感にどぎまぎしながら答えたが、王の方はまるで屈託が無い。


「そうなんだ、楽しく話していたんだよ。それにしても、出来たお嬢さんだねエミリアは。婚約者が他の女といちゃついていても、嫉妬の一つもせずに落ち着いた物だ」


 ルーファスの額に血管が浮かんだ。それでもいつもの微笑を浮かべているのが凄い。だがそのご機嫌を損なっている事は、見る者が見ればすぐ分かるし、圧が凄まじい。

 エミリアがちゃんと説明しようと口を開こうとする前に、ルーファスが言った。


「エミリア、後でゆっくり話を聞かせてもらう」

「え、ええ……。でもそんな、何も大した話はしていないのよ……」


 エミリアの弁解に、王はにやにや……、いや、にこやかに笑っている。明らかに、引っ掻き回して楽しんでいるようだ。


(困った物だわ、陛下には)


 ルーファスも王の隣に座ったので、二人並んでいるのを目にすると、本当にそっくりだ。

 ルーファスが年を取ると、きっと王のような容姿になるのだろう。

 性格まで似てしまったらどうしよう、と少し失礼な事を考えてしまう。不敬に問われないよう、エミリアがその思いを打ち払っていると、和やかな雰囲気が壊される一報がもたらされた。

 城内の従僕らしい男が青ざめ、小走りで王の元に駆けつけたのだ。


「大変でございます! 宰相殿を始めとする一団がこの大広間に向かっているそうです!」


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