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人助けをしたら、私にだけ優しい王子様にとんでもない執着をされてしまった  作者: 園内かな


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20.食事会


 けだるげな男女が、乱れた衣装をそれぞれ着なおしている。

 男がちょっかいをかけて、女の首筋に口付けようとすると、彼女は嫌がった。

「ん……っ、やだあ。今から、食事会の準備、しなくちゃいけないのに……」

「ふふ、許せ、エミリア。時間が無いのに、想いが止められなかった」


 悪びれず、反省のそぶりも見せずにルーファスが言い放つと、エミリアは首を横に振った。


「いいえ。その、私も嬉しかったから。助けに来てくれて、慰めてくれてありがとう……」

「エミリア。やはり、君は俺の身も心も癒してくれる」


 二人とも、少しの間でも離れなければいけないのを名残惜しく思う。渋々といった感じでルーファスが部屋を出て行く。エミリアも見送りながら、事後の充足感と残念さがない交ぜになった溜息を吐いたのだった。




 数時間後、ルーファスとエミリアは爽やかな余所行きの笑みを浮かべていた。

 王の間に迎え入れられた二人は、ついさっきまで抱き合っていたことなど夢にも思えない程に美しく装っていた。これから、王と食事を共にするのだ。


 エミリアは緊張していたが、先ほどの酷い初対面とは違い、ドレスと化粧という武装はしてある。侍女たちによって綺麗に装わされ、そしてルーファスという頼れる王子が隣に居ると、エミリアもまるでどこかのお姫さまのように見える。

 内心、粗相がないよう必死で己を戒めているがエミリアは笑みを振りまいて王宮に居る人たちにルーファスが悪く思われないよう努めた。


 ルーファスは


『何をする事もないよ、君は黙って微笑んでいるだけでいい。全て俺が対処する』


 そう言ってくれていた。エミリアが自発的に何かを述べるという事は無いが、彼が隣で目を光らせてくれていると頼もしい。

 二人は王の間のダイニングで部屋の主を待ち、そして彼が入室すると起立して迎え入れる。王は端正な顔ににこやかな笑みを浮かべ口を開いた。


「やあ、ルーファスにエミリア。来てくれて嬉しいよ」


 王も、先ほどエミリアを誘拐した件などまるで忘れたような口ぶりだ。エミリアは愛想笑いを顔に貼りつけてはいるが、内心この御方は苦手だと感じていた。

 ルーファスの方は、一応はいつもの柔和な笑みを浮かべているものの、口調は辛辣だ。


「わざとらしい挨拶など結構。本題に入りましょう。今後の協力体制とは具体的に何をするとお考えですか」

「まあ、座れ。食事を取りながら話そう」


 王は溜息を交えながら着席を勧めた。

 どうも、王と王子は親子としても国政に携わる同士としても上手くいっていないらしい。ルーファスの話を聞くと、幼少の頃より全くの無関心不干渉だったらしいので、いきなり手を取り合って仲良く、というのも難しいだろうが。

 給仕が前菜からサービスし始め、ぎこちない食事会は始まった。


「ところでエミリア、この国の歴史については詳しいのかい?」

「詳しくはありません。今は本などで学んでいますが、いずれ家庭教師を付けて学ばせます」


 ルーファスが答えた。

 エミリアは黙って凝った形に盛りつけられた前菜をつついている。


「私が即位したのは何歳の時か知っているか?」

「十歳」


 またルーファスが答えた。しかし王は気にも留めず話を続ける。


「そうだ。先王の父が急逝し、次の王位を巡って様々な事が起こった。そして、私の後見として当時の宰相……、現宰相サディアスの祖父に当たる人が摂政し、私が即位することになった。彼には息子が居なかったからね。それにサディアスもその時は未だ七歳。何れ、彼に取って変わられ王座を追われるのではないかとはその時から感じていた」

「想い出話を語る場では無いでしょう。それより今後の展望を話して頂きたいですね」


 エミリアにはルーファスは辛辣すぎる、ように思えるが王も駆け引きをしているように思える。黙って聞いて会話の行方を伺うしかない。


「まあ最後まで聞きなさい。実権を握られた少年王は、命を狙われることを避ける為、政治にはかかわらず過ごすことにした。存在感を消し、お飾りの王として暮らし続けた」

「そうですね。だから突然、力を合わせて政敵に立ち向かおうと言いだしたところで、求心力もなく誰も集まらない」

「だが、王印は私の元にある」

「…………」


 ルーファスは、笑みを引っ込めて無言になった。

 今、国王は大変な事を言っているのかもしれない。しかし彼はにこやかに、何でもないように話を続けた。


「どこまで話したかな。そうそう、お飾りの王だったが、王妃には以前から好ましく思っていた令嬢を望み、それは叶ったよ。宰相は自分の縁戚に当たる娘を妃にと頑張ったが、グレイスが伯爵家の娘であった事が幸いした。出産後に体調が戻らず、寝付いてしまった後亡くなってしまったが。優しく可愛い人だったよ」


 グレイスというのが亡くなった王妃で、ルーファスの母の名前なんだろう。

 そんな事があったのかと息を詰めて聞こうとするエミリアだったが、ルーファスは冷たい声を出した。


「それで、その死因の元となった息子の事を憎み放置していたという訳ですか」

「まさか。私が息子を可愛がると、その王子はすぐに死ぬことになっただろう。幼く無防備な子を狙うのは容易い」

「その幼く無防備な子を放置したんですよ、貴方は。お蔭で俺は何度も死にかけた」

「おや、想い出話を語る場では無いのではなかったのか?」

「……貴方が始めたんですよ」


 ルーファスは激高するのを我慢しているようだが、かなり腹立たしく思っているのは間違いない。やはり、この王は癖がありすぎる。幼少の頃より政治闘争の場で身を守り、躱しつづけていたせいか普通に話して疲れるくらいひねくれている。

 エミリアはテーブルの下でそっと手を伸ばし、ルーファスの膝の上に手を置いた。さっき彼がエミリアを助けてくれたように、今度は自分が傍に居ると伝えたのだ。

 ルーファスはその手をぎゅっと握って、自らを落ち着かせるように一息、ふうと深く息を吐いた。それから真顔で父に問う。


「王印を使うおつもりですか。例え王といえど、私的な利用を議会の承認無しに使えばどうなるかはお分かりでしょう」

「勿論。議会は宰相派が抑え、奴の言いなりだ。そして、どっちにしろ立太子の儀の辺りで動きがあると王位も危うくなる。それならば、王子と力を合わせ二対一に持ち込む方が良いだろう」


 王の答えに、ルーファスは鼻で笑う。


「数の上では二対一になったところで、権力と人材では比べ物になりませんよ。ついでに資金力も」

「そこは王印と、次世代への期待と求心力で何とかしよう」


 王の言葉に、ルーファスは頷いた。


「分かりました。現在、宰相派にはつかず中立になっている者、様子見で決めかねている者を狙いましょう。立太子の儀までだけでも、味方を増やせれば良い」

「それから、現宰相派で内部に不満を抱いている者もね。巻き返して有力者を寝返らす為に、闘争の場を設けようと思っている」

「それは一体?」


 ルーファスの問いに、王はエミリアににこりと笑いかけた。


「エミリア、君にも大いに動いてもらわなければいけない。何せ舞台は、城内で行われる舞踏会なんだから」

「舞踏会……」


 エミリアは、既にドキドキとしてきた。華やかな舞踏会、その本質は政治闘争。エミリアも役者の一人として出ることが決定しているというのだ。

 そんな事、自分に出来るのだろうか。

 不安に思っても、既に舞台の開幕は決まった。演者はそれに合わせて動くしかない。


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