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人助けをしたら、私にだけ優しい王子様にとんでもない執着をされてしまった  作者: 園内かな


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15.盗み聞き

 今日も、離宮に閉じ込められたままだ。エミリアは溜息をついた。

 ルーファスの立太子の儀はもうすぐという事で、離宮の中もざわざわとしている。どこに宰相サディアスの間者が居るか分からないし、命を狙われる危険があると言われ、エミリアはこの離宮の中しか自由に動けない。


 ルーファスの為に、何かしてあげたいという気持ちはあった。家に帰りたいという気持ちもあるが、危険を押して無理を通すつもりは無かった。一先ず、ルーファスの状況が落ち着いて安全になってからの方がいいだろう。動くに動けない状況で、彼の為に何かをしてあげたい。

 だが、身分の差もありすぎるし国の情勢にも詳しくなく、何をどうすれば良いかは全く分からない。


「図書室に行くわ」

「はい、お供いたします」


 やはり、知識を得て情報を知る為には書物に頼るのが一番だろう。

 エミリアは図書室に行くことにした。勿論、一人で移動してはいけないので案内役の侍女ホリーも同伴している。


 以前案内されたが、その時はちゃんと中を見ていなかった図書室に足を踏み入れたエミリアはその圧倒的な本の量に溜息を吐いた。荘園でも本棚があって少しは本があったが、広い部屋が本棚でぎっしり埋まっているのは凄い眺めだ。

 それも、王宮の図書室とは違いルーファスが個人で集めた蔵書らしい。

 嘆息し、中を少し見て回ったが何処に何があるのかはまるで分からない。これは、聞いた方が早いだろう。エミリアはホリーに質問した。


「この国の歴史や、情勢が分かる本はあるかしら?」

「はい、此方にございます」


 本を数冊手に持って、図書室の奥まった場所にある机に置く。そこはひっそりと静かに本を読めるよう、入口から一見しても姿が見えない所にあった。本棚たちによって隠された場所なのだ。


「ここで読むわ。貴女も、えーっと、ホリーも何か座って読めばどうかしら」


 有能そうな侍女は、首を横に振った。


「いいえ、わたくしはお側に付いております」

「そんな、側でずっと立って待たれていると申し訳なくて気になるわ。それに、集中出来ないもの。そっちに座って頂戴。私が動けばすぐ分かる位置だと良いでしょう?」

「ですが……」

「本がこんなにあるんだもの、気になる物を読めばいいわ」


 図書室は広く、たくさんの蔵書があった。誰かが来ても、二人が居るとはすぐには分からないし、もし此方にやって来るならホリーはさっと立って控えていたように振る舞えば良い。そう言外に伝えると、ホリーは深々と頭を下げた。


「お心遣い、ありがとうございます。それではそのようにさせて頂きます」

「ええ。分からない所があれば、教えてもらいたいわ」

「まあ、そのような。私は人に教える身分ではございませんので……」

「知っている事があれば、知らない人に教えるくらいは良いじゃない」


 エミリアは屈託なく言うが、ホリーは恐縮しきりだった。最初は「ホリーさん」と呼びかけて、それだけは止めて欲しいとお願いされたりもしていた。

 侍女は何人も居るが、そのうちよく世話をする三人ほどの侍女は名前を憶え呼びかけられる仲になった。しかし、向こうはそれに戸惑いを覚えるようで、あまり仕事以外の話をエミリアとするつもりは無いようだ。


 王宮の高級侍女と田舎荘園の侍女を比べるのはあんまりだが、ついつい(ジェシカとは大違い)と思ってしまう。ジェシカなら此方が黙って居てもあれこれ話をしてかしましく世話を焼くことだろう。

 そんな事を思い出すと、エミリアの心はたちまち荘園に飛んでいく。みんな、どうしているだろう。


 ジェシカはお喋りが過ぎてテレンスに怒られたりしていないだろうか。いやそれより、エミリアの事を心配していないだろうか。観光が長引いているだけと思っていたらいいけれど。

 父母のことをあれこれ思い返していると、ノックもなく図書室の扉が開き、男性の足音らしいドスドスと荒々しい音が聞こえてきた。どうやら、騎士たちが入って来たらしい。


 彼らが本を探しに来たのなら、わざわざ自分たちが居ることを知らせて恐縮させることも無いだろう。エミリアは唇にそっと指を当て、ホリーに「しーっ」と静かにするジェスチャーを見せた。

 しかし、来訪者たちは本を探す訳ではなく、扉を閉めるとその場で立ち話を始めた。


「それで、バイロン殿。話とは?」


 この声は、ルーファスの護衛騎士ヒューゴーだ。彼の父も護衛を務め血筋正しく、騎士団一の実力の持ち主らしい。ルーファスと共にエミリアの荘園にやって来たし、騎士の中で中心人物だったのでよく覚えている。

 バイロンと呼ばれた男の事は知らないが、ヒューゴーとは違う声が話し始めた。


「勿論、殿下が囲っている女性の事だ。聞けば、エルトワ王国の辺境にある荘園の娘とか。わざわざ他国の田舎娘を連れて来て、この大事な時期に侍らすとは。殿下も何をお考えなのか」


 エミリアの事を話している。こんな風に聞き耳を立てるつもりはなかったが、今さら出て行きにくい。エミリアは思わずため息を吐いたがそれは彼らの耳に届かなかったようだ。

 ヒューゴーの声はよく図書室に響いた。


「殿下がおっしゃるには、立太子の儀の際に無くてはならない人物、らしい」

「ほう……」

「それから、我が父に聞いたのだが。彼女は八年前のあの毒蛇暗殺未遂の時に、殿下を助けた人物だ」

「ほほぉ、なるほど。証人を出して宰相を糾弾するか、恩人として美談仕立てにするか。何にせよ、駒として使えそうだ」


 何という事を言うのだろう。エミリアはショックを受けた。しかし、これが王宮の中で暮らす者たちの考え方という物だろうか。

 衝撃で固まっているエミリアに、ヒューゴーの声は続いた。


「いや、それだけではないだろう。現に、殿下は彼女を駒としてではなく寵愛されている。離宮の配下には、全て彼女を優先しその身を護る用に指示もされている」

「まさか、本当に女などにうつつを抜かしていると? こんな時期に! 何としても立太子の儀を無事に終えなければ、我ら全員破滅だとういうのに」


 バイロンと呼ばれた臣下の口ぶりでは、宰相派と王子派の決着は近くなんとしてもルーファスに政権争いを勝ってもらわないといけないらしい。ルーファスの協力者は、博打のように一発逆転で彼に賭けているような状況なのだろうか。

 エミリアが考え込んでいると、ヒューゴーの冷静な声が聞こえた。


「殿下はそのような甘い考えを持つ御方では無い。それは今まで、お側で見て来たバイロン殿もご存じである筈」

「それは、確かに。では、一体何故この時期に。ヒューゴー殿は如何見る」

「今まで、殿下は寵愛した物を傍に置いたり、一人だけを重用し大切にした事は無かった。その存在は絶対に宰相一派に狙われ、消されるからだ」

「それは、そうだな」


 そんな環境が当然だなんて。エミリアの心はずきずき痛む。

 とにかく、ルーファスが気の毒だった。誰か何とかしてあげれば良いのに、どうにも出来ない物なのだろうか。勿論、自分に出来る事があればしてあげたいのだが、どうすれば良いのかも分からない。

 エミリアの苦悩をよそに、ヒューゴーは話を続けた。


「つまり、今この時期に寵愛した人物を傍に置くのはわざと狙わせる為のもの。餌の役割なのだろう」


 がんっと頭を殴られたように衝撃だった。思わず両手で口を覆って息を殺した。

 エミリアのショックを置いて、ヒューゴーたちの話は更に進んでいく。


「おお、なるほど。それなら得心がいく。もしその女が犠牲となったら、徹底的に犯人の背後まで辿り、黒幕に罪を償わせられるだろう」

「ああ。相手から攻められるのを待つだけではなく、弱い点をわざと突かせてそこを待ち伏せ急襲する。なかなか良い手と言えよう」

「今までの、狙われても罪を問えない時期はそろそろ終わりだな。殿下は十分に力をつけて来ている。立太子の儀が終われば、今までの宰相一派の悪事も暴けるだろう」

「その筈だ」


 納得したようなバイロンの声は、ホッとしてさえ聞こえた。訳の分からない女であるエミリアが入り込んでいる状況は、ルーファスの臣下たちに不安を与えていたらしい。さもありなんという答えを聞かされたバイロンは、よし、と頷いてから口を開いた。


「了解した、ヒューゴー殿。それでは引き続き殿下の警護を頼む。私は古い王室筋にも当たりをつけ、立太子の儀を万全に行うつもりだ」

「ああ」


 それで会話が終わり、二人は出て行く。そう思ったが、バイロンという臣下は扉に向かいながらまだ話を続けていた。


「もし今の寵姫の命が助かっても、この件が終われば用済みだな。殿下には身分正しき姫かご令嬢を正妃として頂かなければ」


 そして扉がバタン、と閉まって静寂が戻った。




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