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幕府は、俺が守る――1853年7月8日、浦賀沖から始まる歴史改変  作者: ヲワ・おわり


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第六十八話 後世への手紙

夜、一人だった。


 燭台の前に座って、俺は筆を取った。


(書こうと思っていた。いつかは書かなければ、と思っていた。今日が、その日だ)


 紙が白かった。どこから書くか、少し考えた。


 それから、書き始めた。


——未来の誰かへ。


 もしこれを読んでいるならば、俺は1860年代の江戸にいる。


 俺の名前は、神田伊織と言う。


 しかし——本当は、別の名前があった。別の時代から来た人間だ。この時代では言えないことを、これを読む誰かには知っておいてほしい。


 俺は幕府を守ろうとした。


 正確には、幕府の中で生きている人々を守ろうとした。川路聖謨という人間が、岩瀬忠震という人間が、勝海舟という人間が——この国の未来のために動いていた。俺はその人たちのそばで、できることをした。


 成功したかどうかは、これを読んでいる人の方が知っているかもしれない。


 しかし——俺はここで、やり遂げようとしていた。それだけは確かだ。


 もし俺が、徳永家に繋がる人間に届くなら——


 俺はやり遂げた、と伝えたい。


 そしてもう一つ。この時代は、暗い時代ではなかった。本当の幕末を見た俺には、そう言える。混乱の中にも、志のある人間がいた。先を見ようとしている人間がいた。それを忘れないでほしい。


 1860年、神田伊織(または徳永蓮)


——


 書き終えて、俺は紙を見た。


(これでいい)


 字が、少し揺れていた。筆に慣れていないせいもある。しかし読めないことはない。


 どこに隠すか、少し考えた。


 神田家の家財の中に、古い箱がある。誰も開けない場所だ。そこでいい。百年後に誰かが見つけるかもしれない。見つけなくてもいい。


(書いたことに意味がある。残したことに意味がある)


 箱に入れながら、俺は現代のことを思った。


 徳永蓮として生きていた日々。会社。満員電車。スマートフォン。あの世界が遠かった。


(俺はもう、帰りたいとは思っていない——いつからだろう)


 気がつけば、この時代に根がついていた。川路に頼まれた時。阿部に「頼む」と言われた時。澄が「味方です」と言ってくれた時。


 これが俺の場所になっていた。


 手紙を隠した後、俺はしばらく部屋に座っていた。


(全部終わったら、これが形見になるかもしれない。しかし——まだ終わっていない)


 幕府の改革は続く。薩長は止まらない。


 でも俺はここにいる。この時代に、いる。


 それが全てだった。

続きも本日更新予定です。よろしければ次話もお付き合いください。

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