表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幕府は、俺が守る――1853年7月8日、浦賀沖から始まる歴史改変  作者: ヲワ・おわり


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
67/70

第六十七話 理解者

「あなたのことを、長い間考えていました」


 澄が言った言葉は、静かだった。


 いつもの部屋だった。帳簿が片付けられた机の前。澄が俺を見ていた。


「考えていた、とは」


「あなたがどういう人間なのか、ということです」澄が続けた。「最初に会った時から——何か違うと思っていました。言葉の使い方が、この時代の人間とは少し違う。考え方の順序が、違う」


 俺は何も言えなかった。


「あなたは」澄がゆっくりと言った。「この時代の人間ではないのではないかと——思っています」


 俺の中で何かが止まった。


「……なぜ、そう思いますか」


「目が違います」澄が言った。「この時代を見ている目ではなく、もっと遠い場所から見ている目です。最初に会った時から、そう感じていました。しかし——」


「しかし」


「信頼できると思った。だから聞かなかった。でも今は」澄が俺を真っ直ぐに見た。「言っていいと思いました」


(見抜かれていた。ずっと、この人には見えていた)


「……澄さん、俺は——」


 言いかけて、止まった。何を言えばいいか、分からなかった。否定することは、嘘になる。肯定することは——何をどう説明すればいいか。


「言わなくていいです」澄が静かに言った。


「え」


「言わなくていいです」澄が繰り返した。「私はあなたの味方です。それだけを言いたかった」


 俺は——声が出なかった。


(孤独だと思っていた。ずっと。この時代で一人だと。知識を持っていても、誰にも本当のことが言えない孤独が、ずっとあった)


「澄さん」俺はやっと言った。


「はい」


「……ありがとうございます」


「礼を言わないでください」澄が言った。「あなたがこの時代でどれだけ動いてきたか——帳簿を通して、私は見てきました。川路様を守ったこと。岩瀬殿を守ったこと。阿部様のために動いたこと。それは全部、私が数字として追ってきました」


「数字として」


「はい。人の動きは、必ず数字に残ります」澄が少し笑った。「そしてあなたの動きは——この時代の人間の動き方ではありませんでした。でも、この時代を守ろうとしていた」


 俺はしばらく黙っていた。


「その日が来ますか」俺は言った。「いつか説明できる日が」


「来るかもしれません」澄が言った。「来なくてもいいです。今日は——ただ、あなたの味方だということを伝えたかった」


 その夜、勝に別件で会いに行った。


「神田」勝が突然言った。「お前、普通の人間じゃないと思ってるだろ、俺が」


「……そう見えますか」


「最初からそう思ってた」勝が笑った。「でもそれでいい。普通でない人間が必要な時代だった。お前みたいなのが」


「ありがとうございます」


「礼を言うな、変なやつ」勝が言った。


 その夜、俺は一人で空を見た。


(この時代に——俺を知っている人間がいる。それだけで、もう十分だ)

続きも本日更新予定です。よろしければ次話もお付き合いください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ