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幕府は、俺が守る――1853年7月8日、浦賀沖から始まる歴史改変  作者: ヲワ・おわり


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第六十五話 海軍の夜明け

「来い」


 勝の書状に書いてあったのは、それだけだった。場所と時刻だけが続いていた。


 江戸湾の岸辺に行くと、勝がいた。そして沖に——。


 三隻の西洋式蒸気船が、江戸湾を進んでいた。


 白い煙を吐きながら、整然と動く三隻。帆ではない。蒸気の力で。


(これが——本物の艦隊だ)


「どうだ」勝が隣に来て言った。


「……すごい」それしか出なかった。


「すごいだろ」勝が言った。笑っていた。子どものような笑い方だった。「あの三隻が幕府のものだ。これが始まりだ。これから増やす」


「勝殿が——作ったんですか」


「俺と、お前が最初に種を蒔いた」勝が言った。「建白書を覚えてるか」


「覚えています」


「あの時、誰もあれを真剣に聞かなかった。お前だけが、川路様のところに繋いでくれた。そこから始まった」


 三隻が向きを変えた。波の上で、重厚な動きで。


「これが俺たちが作ったものだ」勝が言った。


「あなたが作ったものです」俺は言った。


「俺だけではない」


「でも、勝殿が動かなければ——船は動きません。制度があっても、それを実際に形にできる人間がいなければ意味がない。この船は、あなたが作った」


 勝が少し黙った。


「……お前、阿部老中に会ったことがあるだろう」勝が言った。


「はい」


「あの方はどんな人だった」


「重かった人です」俺は言った。「一人で幕府を背負っていた。それが、体を壊した原因でもある」


「俺はほとんど会ったことがない」勝が言った。「でも——お前から話を聞いていると、そういう人だったんだろうと思う」


「はい」


「こういうもの、見せたかったな」


 俺は、その言葉を口にする前に気がついた。自分の中に、ずっとあった感情に。


「阿部様に見せたかった」俺は言った。


 静かに言えた。


「そうだな」勝が言った。「……見せたかったな」


 二人でしばらく、船を見ていた。


 江戸湾の風が冷たかった。しかし清かった。


「お前が最初に来た時」勝が言った。「こうなるとは思わなかったか?」


「自信はなかった」俺は言った。


「嘘をつけ」勝が笑った。


「……少しは自信がありました」


「そうだろ」


(これが阿部様の言った、勝——三人の一人。この人が今、本物の艦隊を作った)


「まだ道は長いです」俺は言った。


「分かってる」勝が言った。「しかし——始まった」


「はい」


「薩摩が独自に洋式船を買い入れているという情報がある」勝が続けた。「奴らも止まらない」


「知っています」


「どうする」


「考えます」


「俺も考える」勝が言った。「一緒に」


 それが一番、頼もしかった。

続きも本日更新予定です。よろしければ次話もお付き合いください。

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