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幕府は、俺が守る――1853年7月8日、浦賀沖から始まる歴史改変  作者: ヲワ・おわり


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第五十九話 勝海舟の選択

「お前、何か心配そうな顔をしてるな」


 勝が俺を見た瞬間、そう言った。


「そうですか」


「そうだよ。いつもは澄んだ目をしてる。今日は濁ってる」


 俺は少し笑った。


「今の状況、どうするつもりですか」


「どう、とは」勝が俺の向かいに座った。「大獄のことか」


「はい」


「俺は海軍の人間だ」勝がはっきりと言った。「政争には巻き込まれない。海軍の仕事だけをやっていれば、誰も俺を標的にしない——そういう立場でいる」


(この人は正しい判断をした。政争から距離を置いて、本来の仕事に専念する。それが勝海舟の生き方だ)


「それで正しいです」俺は言った。「海軍の仕事だけに専念してください」


「お前に言われなくても」勝が笑った。「で——お前はどうするんだ。政争の真っ只中にいるだろう」


「まだいます」


「なんで平気な顔してるんだ。岩瀬は江戸を離れた。川路も追い詰められてる。お前は——名前が上がってるだろう」


「名前が上がっています」俺は正直に言った。「でも、今すぐどうなるかは分からない」


「怖くないのか」


(怖い。しかしそれを表に出す場所が分からない)


「怖いですよ」俺は言った。「ただ、怖いという気持ちを持っていても、やることは変わりません」


「変わったやつだな、お前は」勝が言った。「最初に会った時から、ずっとそう思ってた」


「勝殿も、最初に会った時から変わっていました」


「俺が?」勝が眉を上げた。


「海軍のことを話している時と、政治の話をしている時で、全く別の人間になる。海軍の話をしている時の勝殿は——本当に生き生きしていた」


「そりゃ、海が好きだからな」勝が言った。少し、照れた顔で。


「だから」俺は言った。「海軍を頼みます」


「……それだけか」


「それだけです。でも——それだけが全てです」


 勝が俺を見た。少し間があった。それから笑った。


「分かった」


「安心しました」


「俺が来た日から、何かが始まったな」勝がふと言った。「お前が俺を呼んだ日——あの時から、俺は幕府の人間になった気がする。それまでは、幕府が正しいと思ってたが、信じてるわけじゃなかった」


「今は」


「今は——まあ、信じてる。信じられる人間が、いるからな」


 俺はその言葉を受け取った。


(岩瀬・川路・勝。三人は何とか守った形になった。三人はまだ、それぞれの場所にいる。阿部様が言った通りに——)


「勝殿」俺は言った。「俺がどうなっても、海軍は続けてください」


「縁起でもないこと言うな」勝が言った。「お前がどうなっても続ける。そういうことじゃなくて——お前も続けろ」


「……はい」


 そして俺は気がついた。


(桜田門外の変まで——あと数ヶ月だ)

続きも本日更新予定です。よろしければ次話もお付き合いください。

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