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幕府は、俺が守る――1853年7月8日、浦賀沖から始まる歴史改変  作者: ヲワ・おわり


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第五十七話 宮里澄の問い

「神田様」


 澄が俺を呼んだのは、普通の仕事の時間ではなかった。


 夕方、誰もいない部屋だった。澄が俺の向かいに座った。いつもの澄の顔で——しかし何かが違った。


「聞いてもいいですか」澄が言った。


「何でしょう」


「あなたはいつも、先を知っているように動きます」


 俺は黙った。


「岩瀬殿のことも、阿部様のことも、帳簿の件も——あなたは常に、私より早く状況を読んでいた。なぜですか」


「……」


「教えてください」澄が静かに、しかしはっきりと言った。「なぜですか」


「……言えません」


「言えないのですか」澄が問い直した。「それとも、言いたくないのですか」


 俺は一瞬止まった。


(どちらだ。言えないのか、言いたくないのか)


「……両方です」


 澄が俺を見た。怒っているわけでも、悲しんでいるわけでもなかった。ただ、真剣に見ていた。


「嘘はつかないのですね」澄が言った。


「……嘘をつくつもりはありません。しかし全部は言えない。それが正直なところです」


「なぜ言えないのですか」


「言えば——あなたが危険になる可能性があります。あるいは、俺のことを信じられなくなる可能性がある」


「どちらですか」


「分かりません」俺は言った。「どちらもかもしれません」


 静かな時間が流れた。外で風が動く音がした。


「……分かりました」澄がやっと言った。「今は問いません」


「澄殿——」


「でも」澄が続けた。「いつか、教えてくれますか」


「いつか」俺は言った。


(その日が来るかどうか、俺には分からない。しかし——その日が来てほしいと、思っている)


「ただ」俺は言った。「一つだけ、確かなことがあります」


「何ですか」


「俺があなたを信頼していること。あなたに感謝していること。それだけは——本当です」


 澄が少し目を伏せた。


「なぜ私は」澄が静かに言った。「こんなに、あなたを信頼できるのでしょう。自分でも不思議です」


(俺も不思議だ)


「……ありがとうございます」俺はそれだけ言った。


 その夜、屋敷への帰り道で、俺は川路のことを考えた。


(澄との対話は後で考える。今は川路だ。川路が「逃げない」と言っている。どう説得する)


 そう頭を切り替えようとしながら、しかし澄の「いつか教えてくれますか」という言葉が、ずっと頭の端に残っていた。

続きも本日更新予定です。よろしければ次話もお付き合いください。

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