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幕府は、俺が守る――1853年7月8日、浦賀沖から始まる歴史改変  作者: ヲワ・おわり


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第五十五話 粛清の始まり

「最初の逮捕者が出ました」


 川路の声は、静かだった。しかし俺には、その静けさの中にある震えが分かった。


「誰ですか」


「小浜藩士です。一橋派に近い人物が——昨夜、連れていかれた」


(来た。安政の大獄が、本当に始まった)


 俺の頭の中で、名前が並んだ。史実で粛清された人々。岩瀬忠震。川路聖謨。その他の改革派。


「川路様」俺は言った。「次に誰が来るか——ある程度の予測があります」


「……どうやって知った?」


「今は説明できません。しかし信じてください」


 川路が俺を見た。長い間、見た。


「分かった。信じよう。何をすべきか」


「岩瀬殿と川路様の名前が——上位にある可能性が高いです。岩瀬殿については、今すぐ中央から距離を置いてもらう必要があります。地方官として派遣する形で、一時的に安全な場所に移す」


「それが逆に怪しまれないか」


「そのリスクはあります。しかし動かない方が、もっと危険です」


 川路が頷いた。


「岩瀬に話す。一緒に来てくれ」


 岩瀬は、川路の書簡を読みながら、しばらく黙っていた。


「……私は動かなければならないのか」岩瀬が言った。


「一時的に中央から離れることが、一番安全です」俺は言った。「逃げるのではありません。時間を買うのです」


「時間を」


「嵐には、必ず終わりがあります。嵐が過ぎた後に生き残っていれば——また動けます」


 岩瀬がしばらく考えた。


「……お前が言うなら」


 その言葉が、俺の胸に重く当たった。


(この信頼を裏切れない。絶対に)


「川路様の場合は」岩瀬が聞いた。


「少し違う動き方があります」俺は言った。「川路様には——川路様にしかできない守り方がある」


「具体的には」


「今は言えません。しかし考えています」


 川路が「分かった」と言った。


「岩瀬」川路が岩瀬を見た。「お前を左遷させることになるかもしれない。それは——本当に申し訳ない」


「左遷でも、生きていた方がいい」岩瀬が川路を見た。「神田の言う通りだ。形より実質だ」


 その夜、別の情報が届いた。


「神田伊織という旗本について——井伊大老の周辺で調べが入っているという話があります」


 俺は一瞬、止まった。


(俺自身も標的になりかけている。これをどうする)


 岩瀬を守るための時間は、限られていた。

続きも本日更新予定です。よろしければ次話もお付き合いください。

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