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幕府は、俺が守る――1853年7月8日、浦賀沖から始まる歴史改変  作者: ヲワ・おわり


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第五十四話 大老就任

安政五年、四月。


 井伊直弼が大老に就任した。


「来ました」俺は川路に言った。「想定通りです」


「動揺していないのか」川路が俺を見た。


「しています。でも今、動揺を見せている時間はありません」


 川路が少し笑った——いや、苦笑いに近い顔をした。


「神田、どうする」


「次は粛清が来ます」俺ははっきりと言った。「大老就任の後、最初に来る動きは——一橋派の中心人物への圧力です。標的になりそうな人から、先に動かしてください」


「動かすとは」


「地方への出向や、役職の変更です。表舞台から少し距離を置かせる。直接の攻撃を受けにくい場所に——」


「逃げるのか」川路が言った。


「逃げるのではなく、守るために退くのです」俺は答えた。「戦略的後退と逃亡は違います。今は力を温存して、次の機会に使う」


 川路が俺を見た。長い間、見ていた。


「……お前は武士として生まれるべきではなかったかもしれない」


 褒めているのか、呆れているのか、分からない言葉だった。


「そうかもしれません」俺は言った。


「岩瀬はどうする」


「最優先です。岩瀬殿はハリスとの交渉に直接関わった。一橋派の中でも、最初に標的にされる可能性が高い。今すぐ、役職を一段下げることを提案します——本人が受け入れれば」


「岩瀬はプライドがある」


「分かっています。しかし彼が生き残ることの方が、プライドより大事です。俺が直接話します」


「川路はどうだ」岩瀬が別の件で席を外した隙に、俺は川路に言った。「川路様自身は」


「私か」川路が少し驚いた顔をした。


「川路様も標的になります。準備が必要です」


「私は——」川路が止まった。「逃げることは考えていなかった」


「逃げません。準備をするんです。違います」


(この人の武士としての意地と、俺の現代的な現実主義が、ここでぶつかる)


「俺は……お前の言い方が、時々分からなくなる」川路が言った。


「それでいいです」俺は言った。「俺の言い方が川路様に全部通じる必要はありません。しかし、やることだけ、信じてほしい」


 その夜、間接的に情報が届いた。


「井伊大老が——神田伊織という旗本を調べろ、と言った、という話が出ています」


 俺の名前が、向こうに届いた。


(……来た。これからが本番だ)


 俺は静かに、次の動きを頭の中で組み始めた。

続きも本日更新予定です。よろしければ次話もお付き合いください。

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