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幕府は、俺が守る――1853年7月8日、浦賀沖から始まる歴史改変  作者: ヲワ・おわり


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第四十八話 一橋派の結集

越前藩邸は、静かな朝だった。


 俺は川路の書簡を持って門を叩いた。「阿部老中の文書を届けに参りました」という名目で通される。松平慶永の名前は既に聞いていたが、会うのは初めてだった。


(幕末の四賢侯の一人。越前藩主、松平慶永。開明的な人物で、一橋派の中心となる)


 面会は短かった。しかし慶永は文書を読みながら、俺に一つ言った。


「一橋様への支持は変わらない。阿部殿のご意志を無駄にしない」


 それだけで十分だった。


 一橋家の屋敷を訪ねたのは、その二日後だった。


 慶喜は相変わらず、挨拶もなく「来たか」と言った。


「二度目です」俺は言った。


「座れ」


 今度は座れと言われた。前回より、少し変わっているかもしれない。


「一橋派がまとまりつつある」慶喜が言った。「水戸・薩摩・越前——阿部殿の推薦状が届いた」


「はい」


「私が動けることがあれば言え」


 俺は考えた。慶喜に何ができて、何ができないか。


「政治的な保証が必要です」俺は言った。「老中の中に、最低一人——慶喜様を明確に支持する者が必要です。今のところ、支持はあっても公式には声を上げていない」


「どういうことだ」


「南紀派の圧力が強い。表立って一橋派を支持すれば、自分が標的になる——そういう計算が働いています。それを変えるには、誰かが先に声を上げる必要があります」


「俺が直接話しかけるか」


「それは難しいと思います」俺は言った。「一橋家の当主が老中に直接接触すれば、政治的な干渉として見られます。間接的に、老中が動きやすい状況を作る方が——」


「お前はどこまで先が見えているのか」


 慶喜が唐突に言った。


「見えているというより、考えているだけです」


「同じだろう」


「少し違います。見えていれば確信があります。考えているだけなら、間違える可能性がある」


 慶喜が俺を見た。少し考えてから、口端を動かした。


「……面白いやつだ」


(この人はそういう返事をする)


「老中への根回しは、私と川路様と岩瀬殿が担います。慶喜様は表に出ないでください。今はまだ、その時ではありません」


「俺に待てと言うか」


「はい。しかし必ず出番があります」


 慶喜が短く「分かった」と言った。


 屋敷を出ながら、俺は一橋派の形が固まりつつある感覚を持っていた。越前・水戸・薩摩。老中への接触。阿部の推薦状。駒が揃い始めていた。


 しかしその夜、川路から急ぎの知らせが来た。


「井伊直弼が動いた。大老候補として名前が上がり始めている」


 俺は書状を握った。


(来た。最も恐れていたことが、現実になりつつある)

続きも本日更新予定です。よろしければ次話もお付き合いください。

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