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幕府は、俺が守る――1853年7月8日、浦賀沖から始まる歴史改変  作者: ヲワ・おわり


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第四十話 時間の重さ

「神田、お前は多くのことを同時に進めようとしすぎている」


 川路がそう言ったのは、ある夕方だった。


 役所の一室で、二人だけで話していた。


「分かっています」俺は言った。


「本当に分かっているか」川路が俺を見た。「ハリス交渉・阿部様の体・将軍継嗣・帳簿の謎。全部同時に頭にある。体が一つしかない人間には、限度がある」


「でも全部繋がっています。一つが崩れると全部崩れる」


「そうだな」川路が静かに言った。


 短い沈黙があった。


「……そうだな」川路が繰り返した。「だからこそ、一つずつ確実に」


 その言葉が、俺の中に染みた。


「今の状況を整理します」俺は言った。「ハリス交渉は一点の改善で決着した。将軍継嗣は決着していない。阿部様は倒れた。井伊が動いている」


「その通りだ」


「優先順位は——まず阿部様の延命。これが最重要です。阿部様がいなければ、他の全てが崩れます。次に将軍継嗣での一橋派支援。三番目に——」


「三番目は」


「安政の大獄の準備です」


 川路が静かに俺を見た。


「安政の大獄……とは何だ」


 俺は一瞬、止まった。


(言い過ぎた。この言葉は俺しか知らないはずだ。「大獄」という言葉が出てきた——)


「……守旧派による、改革派への大規模な弾圧が来るかもしれないという見立てです」


「なぜそれが分かる」


「井伊直弼が大老になれば——その可能性があります。彼のこれまでの行動から推測しています」


 川路が長い間、俺を見ていた。


「……お前は時々、まるで未来を知っているような言い方をする」


「見立てに過ぎません」


「そうか」川路が小さく頷いた。


「川路様、私は——何か隠していることがあります」


「知っている」


「それでも、川路様や岩瀬殿や阿部様のために動いていることは本物です」


「分かっている」川路がはっきりと言った。「だからお前のそばにいる」


 その言葉で、何かが解けた気がした。


「神田」川路が言った。「お前が阿部様に次ぐ我々の中心だ。それを自覚しなさい」


「……はい」


「急くな。しかし止まるな。一つずつ確実に積み上げろ。それだけだ」


 俺は深く頷いた。


(「次に来る嵐に向けて、今から準備を始める」——それが今の俺にできることだ)


 その夜、「阿部から呼ばれた」という知らせが届いた。


 「最後の力を振り絞って伝えたいことがある」——川路の言葉が蘇った。


 阿部が俺を呼んでいる。その意味を、俺は静かに、重く、受け取った。

続きも本日更新予定です。よろしければ次話もお付き合いください。

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