表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幕府は、俺が守る――1853年7月8日、浦賀沖から始まる歴史改変  作者: ヲワ・おわり


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

37/46

第三十七話 後継者問題

阿部が倒れた翌日から、城内の空気が変わった。


 誰もが何かを窺うような目をしている。廊下で人が集まってひそひそと話している。


(権力の空白が生まれた)


 老中首座が動けない。それだけで、幕府内部の力学が一気に動き始める。


 川路が俺を呼んだのは、その日の夕方だった。岩瀬もいた。


「将軍継嗣問題が噴出している」川路が言った。「徳川家定公の体が弱いことは知っての通りだ。その後継者を誰にするかという争いが、ここへ来て表面化した」


「一橋派と南紀派ですね」


「お前は知っていたのか」


「噂として聞いていました」


 川路が岩瀬と顔を見合わせた。


「一橋家の慶喜様を推す派と、紀州家の慶福を推す派に分かれている。一橋派には水戸・薩摩・越前など力のある藩が多い。しかし老中の多数派は南紀派だ」


「どちらが政治的に正しいですか」


「お前はどう思う」


 俺は考えた。


(史実では南紀派が勝って慶福が14代将軍・家茂になる。そして15代が慶喜で、最後の将軍になる。もし歴史を変えるなら——)


「慶喜様の方がよいと思います。能力の面では間違いなく優れています」


「私もそう思っている」川路が頷いた。「ただし——慶喜様に直接会ったことがない」


「一度、お会いしてみたいと思います」


「岩瀬はどうだ」


「私も会いたい」岩瀬が言った。「噂には聞いているが、実力は会って確かめる必要がある」


「では周旋しよう」川路が言った。「ただし——南紀派も動いている。彦根・紀州が連携して老中に圧力をかけている」


「南紀派の中心は」俺は聞いた。


「彦根の——」川路が少し間を置いた。「井伊直弼だ」


 俺の中で、何かが冷たくなった。


(来た)


 井伊直弼。1858年に大老に就任し、安政の大獄を主導した人物だ。改革派を根こそぎ粛清する——岩瀬も川路も、その危険にさらされる。


「……井伊様が動いているのですね」


「そうだ。神田、お前は知っているか」


「名前は聞いています。彦根藩主です」


「それだけか」


「それ以外には」俺は答えた。


(全部言えない。でも知っている。あの人物が大老になれば、幕府内の改革派が潰される。阿部が作り上げた開明的な路線が、一気に巻き戻される)


「阿部様の意志は変わっていない」川路が言った。「病床から『私が元気なうちに、一橋様を推薦する形を作っておきたい』と仰っている」


「阿部様がそれを望んでいるなら——私たちにも動ける根拠があります」


「その通りだ」川路が言った。「一橋様との面会を設定しよう」


 岩瀬も頷いた。


(井伊直弼という名前が、南紀派の影として大きくなってきている。川路が「彦根の井伊殿が動いている」と言った時の声に、緊張の色があった)


 俺は歩きながら、「一橋慶喜という最後の将軍に、今から会う」という奇妙な感覚を抱えていた。

続きも本日更新予定です。よろしければ次話もお付き合いください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ