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幕府は、俺が守る――1853年7月8日、浦賀沖から始まる歴史改変  作者: ヲワ・おわり


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第三十五話 部分改善の達成

条約が締結された。


 安政五年(1858年)七月、日米修好通商条約。


 岩瀬が俺の部屋を訪ねたのは、調印の翌日だった。疲れた顔をしているが、歩き方がしっかりしている。


「取れた」


 一言だった。


「……治外法権の範囲限定が」


「入った。『開港場内の外国人と日本人の間の争いに限り』という文言で。小さい変更だが——条文に入った」


 俺は頷いた。


「よくやった」


「お前のおかげだ」


「岩瀬殿の交渉力です」


「そう言ってくれ」岩瀬が苦笑した。「守旧派にはまた叩かれるだろう。『妥協しすぎだ』と」


「最恵国待遇と関税は」


「史実通りだ。それは変えられなかった。開港場も五港になった」


(一点。一点だけ変えた)


「それで十分です」俺は言った。


「十分か」岩瀬が少し意外そうな顔をした。


「今できるベストだった。一点でも変えられたことは、次の改正交渉に使えます。『開港場限定』という解釈が先例になれば、将来もっと広げられます」


「……前向きだな、お前は」


「悔しいのは悔しいです」俺は正直に言った。「でも落ち込んでいても次が来ない」


 川路から書状が来た。「二人でよくやった。次は朝廷問題と将軍継嗣問題だ」という内容だった。


「もう次の話か」岩瀬が苦笑した。


「休む間がありませんね」


「まあいい」岩瀬が立ち上がった。「約束の一杯、今夜飲みに行くか」


「喜んで」


 その夜、俺と岩瀬は小さな居酒屋に入った。二人で酒を飲んだのは初めてだった。


「神田、お前はいつか自分の話をするか」


「自分の話とは」


「お前の本当の話だ。どこで生まれて、何を知っていて、なぜここにいるのか」


 俺は少し考えた。


「……いつかは」


「今は言えないのか」


「今は言えません」


「そうか」岩瀬が酒を一口飲んだ。「まあいい。お前が何者でも、今ここで一緒にいることは本物だ」


 その言葉が、俺の中に静かに染みた。


「守旧派からの批判が『岩瀬忠震は信用できない』という声に変わってきている」


 川路の言葉を、俺は心の中で繰り返した。


(その声が大きくなる前に、俺は手を打たなければならない。しかしまず——阿部の体だ)


 翌朝、川路から「阿部様が最近、一日中横になっていることが増えた」という知らせが届いた。


「もう待てない」俺は静かに言った。「今すぐ動かなければ」

続きも本日更新予定です。よろしければ次話もお付き合いください。

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