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幕府は、俺が守る――1853年7月8日、浦賀沖から始まる歴史改変  作者: ヲワ・おわり


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第二十九話 江戸帰還

江戸に戻ったのは、長崎を出て十二日後だった。


 神田の屋敷に着くと、母のかねが出てきた。


「お帰りなさい。お疲れでしょう」


「ただいま」


「顔が少し黒くなりましたよ。旅の日焼けですか」


「日差しが強かったです」


 妹のさとが廊下から顔を出した。「お土産は?」


「後で。まず着替えます」


 一刻も休まず、俺は川路のもとへ向かった。


 川路は役所で待っていた。


「帰ったか。報告書を見せろ」


「はい」


 俺は長崎での活動をまとめた書状を出した。川路が素早く読む。


「海軍伝習所は順調か」


「はい。史実より一年早い設立が実現しました。教官陣はオランダから来ており、技術レベルも問題ありません。生徒の訓練も始まっています」


「薩摩が参加しているという話が来ていたが」


「三名おります。長州も参加希望が来ています。核心技術は共有しないという方針で、基礎訓練は一緒に行う形にしました」


川路が少し眉を上げた。「それはお前が判断したのか」


「勝殿と相談しました。その後で川路様に報告すべきでしたが——先に動いてしまいました。異存がありましたら訂正します」


「いや、その判断は正しい」川路が言った。「排除すれば彼らは独自に学ぶだけだ」


 岩瀬が部屋に入ってきた。「神田、帰ったか」


「ただいま戻りました」


「ハリス対策の議論に参加してくれ。幕府はまだ腰が重い。あいつをどう扱うかで意見が割れている」


「どう割れているのですか」


「『会うな』という意見と、『会って条件を引き出す』という意見だ」岩瀬が端的に言った。「前者は守旧派。後者は実務派。今のところ前者が勢力を持っている」


(史実では幕府は最終的にハリスと交渉する。しかし時間を無駄に使う。今からでも準備を始めれば、条件を少しはマシにできる)


「会う方向で動いた方がいいです」俺は言った。「会わなければ、ペリーの時と同じことになります。圧力が強くなって、最悪の条件で受け入れることになる」


「それを攘夷派に言ってみろ」岩瀬が苦笑した。


「岩瀬殿が言ってください。私が言っても重みがない」


「そうだな」


 川路が俺を見た。


「神田、一つ言っておく。帰ってきたか。実は阿部様の様子が少し気になっている」


 俺の心臓が少し速くなった。


「どのように」


「顔色が以前より悪い。無理をしている感じが増している」


「詳しく聞かせてください」


「それは明日でもいい。今日はゆっくり休め。明日の午前中に阿部様に会う機会を作った」


 俺は「ありがとうございます」と頭を下げた。


 帰り道、澄からの書状が届いていることを浅羽から聞いた。「帳簿にまた変な動きがありました。詳しくお話ししたい」という内容だった。


(複数の課題が同時に動いている。しかし今は優先順位をつける)


 ハリス対策が最優先。帳簿の件は次。阿部の体のことは——明日の面会で確かめる。


 眠れない夜になった。川路の「顔色が以前より悪い」という一言が、ぐるぐると頭の中を回り続けた。

続きも本日更新予定です。よろしければ次話もお付き合いください。

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