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幕府は、俺が守る――1853年7月8日、浦賀沖から始まる歴史改変  作者: ヲワ・おわり


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第二十八話 情報網の構築

帰る前日、俺は長崎でもう一つやっておきたいことがあった。


 午前中、通詞のヘンドリックとの取り決めを改めて確認した。連絡の方法、報告の頻度——書状のルートを具体的に決める作業だ。


「年に三回、春・夏・秋に書状を送ります」ヘンドリックが言った。「状況が急変した場合は速報もします」


「ありがとうございます。こちらからの日本情報は、毎月の書状として送ります」


「承知しました」


 次に、長崎の蘭方医・松岡という人物を訪ねた。


 川路からの紹介状があった。松岡は出島のオランダ人医師と定期的に会合を持っている。西洋医学の知識がある人物だ。


「江戸の神田目付調査役です。長崎と江戸の医療情報を繋ぐルートを作りたい」


 松岡は最初、戸惑った顔をした。しかし川路の名前を出すと態度が変わった。


「川路様のお声がけならば。何かお役に立てることがあれば」


「西洋の最新の医療情報を、定期的に教えてください。薬の種類、治療法——特に、身体の疲労や慢性的な病の対処法について」


(阿部正弘の体のことが頭にある。直接言えないが、情報を集めておく必要がある)


「分かりました」松岡が言った。「オランダ人医師から聞ける範囲で、書状に書きましょう」


「よろしくお願いします。何かあれば江戸の神田伊織まで」と連絡先を渡した。


 帰る前に勝に会った。


「お前は江戸の政治家になりたいのか、それとも実際に日本を変えたいのか」


 勝が唐突に問うた。


「両方です」


 勝が笑った。「正直だ。で、薩摩への方針は決めたのか」


「技術研修は続ける。しかし艦船設計の核心部分は共有しない。これで行きましょう」


「分かった。そうする」


「長崎に残る人間への指示書を書いておきます。ここを核心にしてほしいこと——幕府独自の設計能力を育てること。外国に依存しない技術を作ること」


「それが正しい」勝が頷いた。「依存は危うい。自分で作れなければ、技術を持つ国に永遠に弱い立場で頼むことになる」


「全くそう思います」


 夜、宿で報告書をまとめた。


 長崎でやったこと、見たこと、作ったルート——全部書いて、阿部と川路に届ける形で整理した。


(5年後、このネットワークが機能する。今は種を蒔いているだけだ)


 帰路の準備をしながら、俺は「江戸はどうなっているだろう」と思った。


 阿部の顔が浮かんだ。


 あの疲れた顔。前回の面会で感じた「何かが落ちている」という印象。


 「阿部の顔色のことが気になって仕方ない」という感情が、旅の疲れよりずっと強く、俺の中に漂っていた。

続きも本日更新予定です。よろしければ次話もお付き合いください。

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