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幕府は、俺が守る――1853年7月8日、浦賀沖から始まる歴史改変  作者: ヲワ・おわり


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第二十六話 長崎海軍伝習所

「来た! 遅かったな」


 勝が一番に声をかけてきた。


 伝習所の門を入ると、訓練広場に生徒たちが集まっていた。和洋折衷の服装で、縄を引いていたり書物を手に立っていたりする。


「神田殿をお待ちしておりました」


 勝が笑いながら俺の肩を叩いた。


「もう一ヶ月ここにいるんですか」


「着いてすぐ居心地がよくなった。出島が近いし、オランダ人と話せるし」


 勝が訓練の様子を見回しながら歩き始めた。俺はついていく。


「教官たちはどうですか」


「本物だ。ファービス大尉、という人が主任教官だが、蒸気機関の基礎から航海術まで、ちゃんと教えてくれる。言葉の問題があるが——通詞を使えば何とかなる」


「生徒は何人いますか」


「今は二十人ほど。旗本が半数、残りは藩士だ」


「藩士は」


「薩摩が三人。あと彦根から一人、会津から二人」


 俺は訓練の様子を観察した。オランダ人教官が一人、日本語のできる通詞と並んで、滑車の仕組みを説明している。生徒たちは真剣な顔をして聞いていた。


「長州も来たいと言っている」


 勝が俺のそばに来て小声で言った。


「……どう答えるつもりですか」


「それを聞きたいんだ。俺じゃ判断できない話だ」


 俺は少し考えた。


(薩摩・長州を海軍伝習所に入れることの利害は——利点は、日本全体の海軍力が上がること。リスクは、技術が後の倒幕運動に使われること。でも——)


「どちらに転んでも、彼らは独自に学ぶでしょう」俺は言った。「幕府が排除すれば、長州は別ルートで技術を得ようとする。それよりも、ここで一緒に学ばせる方がコントロールできます」


「コントロール?」


「核心の技術は共有しない。艦船の設計図など、幕府の独自優位を保つ部分は渡さない。しかし基礎知識は一緒に学ばせる。そうすれば長州が孤立した軍事力を持つより、幕府との繋がりが残ります」


 勝が少し考えた。


「……微妙な判断だな。後で後悔するかもしれない」


「後悔するかもしれません。でも今のところ、それが最善だと思います」


 勝が訓練広場を見回した。薩摩の生徒が一人、縄の結び方を教官に直してもらっている。


「あの人間が後で敵になるかもしれないわけだ」勝が静かに言った。


「敵にさせないことが目標です」


「できるか?」


「分かりません。でもやるしかない」


 勝が俺の顔を見た。


「お前は相変わらず正直だな」


 夜、二人で宿に戻って話した。


「次は江戸に帰らなければならない。ハリスが下田に来たという知らせが来た」


「ハリスか」勝の顔が引き締まった。「いよいよだな」


「あなたもできるだけ早く江戸に戻ってほしい。海軍の話を阿部様にもっと具体的に届けたい」


「分かった。あと一週間でひと区切りつける」


 伝習所の建物に灯りが灯っていた。日本人とオランダ人が同じ場所で学んでいる。史実より一年早い——そのことが、俺の手元で確かに何かが変わっていることを教えてくれた。


(次は出島だ。欧州情報のルートを作る)

続きも本日更新予定です。よろしければ次話もお付き合いください。

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