表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幕府は、俺が守る――1853年7月8日、浦賀沖から始まる歴史改変  作者: ヲワ・おわり


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

21/47

第二十一話 役職を得る

川路が俺を呼んだのは、阿部との面会から五日後だった。


「座れ」


 川路の表情が、いつもより少し改まっていた。


「阿部様のご意向を受けて、お前に仕事を頼むことになった」


「……はい」


「目付の調査役として働いてほしい」川路が言った。「公式な辞令ではない。しかし実質的に、江戸城の内側に出入りする立場を与える」


 俺はすぐには答えなかった。


(調査役。無役の旗本から、幕府の機構の内側へ——)


「……承りました」


 川路が短く頷いた。「仕事の内容は国内外の情報収集・分析・報告書の作成だ。川路の管下として動く。岩瀬・阿部様にも報告する機会がある」


「分かりました」


「ただし」川路が言った。「正規の辞令がないということは、失敗すれば責任の所在が曖昧になる。つまり——表向きは俺の個人的な使い走りだ。異議があるか」


「ありません」


「なければよい」


 川路が立ち上がった。「来週から出仕しろ。場所は後で知らせる」



 出仕初日、役所に入ると、先輩役人たちの視線が来た。


 あからさまではない。ちらちらと、横目で見る感じだ。


(「阿部老中の肝いりらしい」「でも無役の旗本が急に……」という空気が充満している)


 俺は最初から「低姿勢で行く」と決めていた。


「神田伊織と申します。不慣れなことが多く、皆様にご迷惑をおかけすることも多いかと思います。よろしくお願いします」


 深く頭を下げた。


 三十代の中堅官僚・山田という男が近づいてきた。


「神田殿は阿部様のご推薦と聞きますが、何か特別なご経歴が?」


「川路様のお声がけがきっかけです。経歴らしい経歴はありません」


「……はあ」山田が少し気の抜けた顔をした。「そうですか。ならば、まず報告書の書き方から覚えていただくことになりますが」


「よろしくお願いします」


 山田が「ご謙遜を」と言いながら仕事の説明を始めた。


(この人は悪い人じゃない。ただ「なぜ急に旗本が入ってきたのか」という違和感があるだけだ。実績で黙らせるしかない)


 午後、仕事の書類を読んでいると、山田がまた来た。


「神田殿は外国の件に詳しいと聞きましたが」


「少し」


「ならば——勘定奉行所から回ってきた書状を読んでみてほしい。解読できますか、これ」


 書状を見ると、オランダ語で何か書いてある。部分的な翻訳が添えられていたが、不完全だった。


「……読んでみます」


 俺は辞書を借り、一時間かけて読んだ。


「英国が中国で新たな港湾施設の建設を開始したという情報です。これは長崎のオランダ商館からの報告で——」


 山田が目を丸くした。


「……読めるのですか」


「下手ですが」


「いや、それだけ読めれば十分です。実はこの書状を半月放置していたのですが……」


 俺は「そうでしたか」と穏やかに言った。


(まず仕事の質で示す。それしかない)


 夕方、帰り際に「また明日もよろしく」と山田が言ってきた。昨日より少し柔らかい声だった。


(居場所ができてきた——ほんの少しだが)


 役所を出ながら、俺は「次に何をすべきか」を整理した。


 まず幕府財政の実態を知ることだ。改革の前に現状を知らなければ、何も動かせない。財政の数字が見えれば、「どこを変えるべきか」も明確になる。


 そのための資料が、この役所にはあるはずだ。

続きも本日更新予定です。よろしければ次話もお付き合いください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ