第十九話 海軍計画
本作は全70話完結予定です。
毎日5話ずつ、07:10 / 12:10 / 18:10 / 20:10 / 22:10 に更新予定です。
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数日かけて、計画書ができた。
勝の長屋と俺の部屋を行き来しながら書いた。勝が技術の部分を担い、俺が戦略の部分を担う。川路に一度見せて修正を加え、三回書き直した。
「これでいい」
勝が最終稿を見て言った。
「正直なところ、俺一人では書けなかった。戦略の部分をこんな形で整理するのは、俺には向いていない」
「技術の部分は私一人では書けませんでした」
「二人で一つが完成した、と言っただろう」
勝が機嫌よく計画書を手に取った。
内容は三つの柱で構成した。
一つ目、長崎海軍伝習所の早期設立。史実の設立は1855年だが、今すぐ動けば1854年中に基礎を作れる。オランダから教官を招き、幕府の人材に蒸気機関・砲術・航海術を教える。
二つ目、国産洋式艦の建造計画。まず一隻、オランダの技術協力を得て試作する。長崎の造船所を活用する。
三つ目、海軍人材の育成システム。幕府だけでなく、諸藩からも参加者を選抜する。将来的な日本海軍の核になる人材プールを作る。
計画書の冒頭に俺はこう書いた。
「幕府が海軍を持たなければ、1860年代には列強に対して完全に無力になる」
「この冒頭は少し強い」勝が言った。
「強くしないと読まれません。阿部様は政治家です。危機感を持たせることが先決です」
「……それはそうだな」
川路が計画書を受け取った日、「これを阿部様にお届けする」と言ってくれた。
「緊張するな」川路が珍しく言った。
「しています」
「正直だな」川路が笑った。「阿部様は誠実な者を好む。緊張していることを隠す必要はない」
「ありがとうございます」
「一つ頭に入れておけ」川路が少し真顔になった。「阿部様は今、非常に多忙だ。藩の業務、政務、外国問題。限界に近いかもしれない。面会の時間は短い。余計なことは言うな、大事なことだけ言え」
「分かりました」
勝と計画書について最後に話した時、勝が「薩摩や長州からも伝習所に参加させるか」という問いを出した。
「……難しいところです」俺は言った。
「どっちでもいいと思うか」
「そうじゃないです。薩摩・長州を入れれば、技術が彼らに渡る。入れなければ、彼らは独自に学ぶ。どちらが幕府にとって有利か——今はまだ判断できません」
「後回しにするか」
「後回しにしましょう。今は伝習所を作ることが先です」
勝が頷いた。「そうだな」
(この問題は後で返ってくる。今は置いておく)
夜、俺は自分の部屋で阿部との面会を想像した。
どんな人物だろう。書状の筆跡は知っている。川路の話から、慎重で現実主義的な政治家だということは分かっている。
(急かしすぎてはいけない。川路の言葉通り、大事なことだけ話す)
翌朝、川路から「面会の日が決まった」という知らせが来た。
「緊張するな」川路がまた言った。
「しています」俺は正直に答えた。
「ここで認められれば、次の扉が開く」
俺はその言葉を、深く受け止めた。
続きも本日更新予定です。よろしければ次話もお付き合いください。




