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幕府は、俺が守る――1853年7月8日、浦賀沖から始まる歴史改変  作者: ヲワ・おわり


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第十七話 勝海舟との邂逅

本作は全70話完結予定です。

毎日5話ずつ、07:10 / 12:10 / 18:10 / 20:10 / 22:10 に更新予定です。

面白かったら評価やブックマークで応援していただけると嬉しいです。

「お前か。川路さんが言っていた面白い旗本は」


 その男は、俺を見るなりそう言った。


 川路が非公式な集まりを用意してくれた。海軍改革について語り合う場だという。部屋に入ると、机の上に西洋軍艦の模型が置いてあった。


 模型を手に取って眺めていた男が振り向いた。


 三十歳ぐらいだろうか。体格は俺より大きい。顔に野性的な明るさがある。着ているものは質素だが、目が——煌めいている。


「勝海舟と申します」と、その男は名乗った。俺は頭を下げた。


「そっちの礼儀は知ってるよ」男が笑った。「俺は勝小吉の息子の麟太郎だ。川路さんの紹介でなければこんな話し合いに来ないけどな。で、お前は何者だ」


「神田伊織と申します。旗本です」


「旗本か。俺も旗本だ。三番組の平旗本で四十一俵二人扶持のな」


 四十一俵。俺の三百石より遥かに低い身分だ。だがこの男には、身分の低さを感じさせる雰囲気が一切なかった。


「海軍の話が聞きたいそうだな」勝が言った。「川路さんから聞いたんだが、お前は外国の情報に詳しいと」


「戦略については話せます」俺は言った。「蒸気機関の設計の詳細は知りません」


「設計なら俺が考える。方向を教えてくれ」


 まっすぐな言葉だった。俺は少し驚いた。普通なら「設計を知らない者の言うことは聞けない」と言われそうなところだ。


「……具体的にどんな方向性について話しますか」


「西洋の海軍が強い理由から始めろ。それを知らなければ、何を作ればいいか分からない」


 俺は頷いた。


「まず技術の差です。蒸気機関を積んだ外輪船は、風向きに関係なく動けます。帆船は風がなければ動けない。この機動力の差が決定的です」


「それは分かってる。次は」


「次は砲術です。西洋の大砲は射程が長く、命中率が高い。砲台と艦を連携させる訓練が体系化されています」


「具体的な数字は」


「詳細な数字は持っていません。ただ、浦賀沖の黒船を見た時の印象で言えば、あの砲門の数と配置は——日本の砲台が太刀打ちできる相手ではありませんでした」


「正直だな」勝が面白そうに言った。「で、そんな強い海軍を日本が作れると思うか」


「作れます。時間はかかりますが」


「何年かかる」


「今すぐ始めれば、十年で基礎ができます。二十年で本物になります」


「間に合わないかもしれないな」勝が率直に言った。「薩摩や長州は今頃、独自に動いているはずだ。幕府が遅れを取れば」


「だから今すぐ始める必要があります。長崎に海軍伝習所を作り、オランダから教官を招く。そこに人材を集めて育てる。幕府が主導でやれば、全国の人材を吸収できます」


 勝が黙った。模型をまた手に取って、眺めている。


「長崎か」勝がつぶやいた。「それは考えていた。ただ、誰かが阿部様を動かす必要がある」


「動かせると思います」俺は言った。「近いうちに直接面会の機会があります」


 勝が模型を置いて俺を見た。


「……阿部様と会うのか。お前が」


「川路様の取次で」


「ふうん」勝が少し目を細めた。「普通の旗本じゃないな、お前は」


「普通です」


「そうは見えない」勝が笑った。「まあいい。面白いやつだ。また話そう」


(この人が俺の将来の同志だ。海軍建設の実務を担う人物。一緒に動ければ、確実に何かが変わる)


 勝が帰り際に振り返った。「そうだ、お前は本当に旗本か?」


 冗談めかした目だった。


「本当です」俺は答えた。


「そうか」勝が笑いながら出ていった。「またな」


 その夜、俺は「海軍建設の具体的な計画を、この人と一緒に作ろう」と決めた。阿部に会うその前に——勝海舟という本物と組むことを。

続きも本日更新予定です。よろしければ次話もお付き合いください。

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