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幕府は、俺が守る――1853年7月8日、浦賀沖から始まる歴史改変  作者: ヲワ・おわり


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13/70

第十三話 老中首座

本作は全70話完結予定です。

毎日5話ずつ、07:10 / 12:10 / 18:10 / 20:10 / 22:10 に更新予定です。

面白かったら評価やブックマークで応援していただけると嬉しいです。

川路からの知らせは、一週間後に来た。


 浅羽が訪ねてきて、封書を差し出した。


「川路様より、お届けするよう言われました」


 封書を開けると、川路の筆で「阿部様がお前の建白書を読まれた。近日中に書面での問答から始める」と書いてあった。


(届いた)


 俺は立ったまま、その紙を見つめた。


 感情が整理できなかった。嬉しいのか、緊張しているのか。両方だった。


 阿部正弘。この時代で最も幕府の未来に真剣に向き合っていた人物。そして——俺がいつか失うことになる人物。


 数日後、川路を通じて阿部からの書状が届いた。


 その書面は短かった。


「十二月の来航は正確だった。来年三月のことも正確ならば、直接面会を許そう」


 筆跡が——丁寧だった。一字一字、整っている。だが何か、力が落ちているような感じがした。紙への筆の押し付け方が弱い。


(この感覚は何だろう)


 俺は自分の感想を振り払って、返書を書いた。


「確かに来ます。また、最も避けるべき条項を申し上げたい」


 川路に届けてもらった。


 川路が「文面がいい」と短く言った。「感謝を並べず、情報を出した。正解だ」


「阿部様は、実際どのようなお方ですか」


 川路が少し考えた。


「慎重で、現実主義者だ。お前のように急くことはしない。だが——信頼した者を動かす力がある」


「どうすれば信頼されますか」


「正しいことを言い続けることだ」川路が簡単に言った。「阿部様は嘘を見抜く目がある。しかし正しいことを言い続ける者には、必ず耳を傾ける」


 俺は頷いた。


「一つ聞いてよいですか」


「何だ」


「阿部様のお体は——」


 川路が視線を向けた。


「気になるか」


「書面の筆跡が……少し」


 川路が短く息をついた。「……確かに、最近は多忙すぎる。幕府の政務だけでなく、藩の業務もある。それに外国問題が加わった。限界は超えているかもしれない」


「それは」


「深刻とは言わない。まだ。しかし——注意しておく必要はある」


 川路の目が少し遠くを見た。「多忙すぎる人物というのは、気がつくと限界を超えているものだ」


(1857年。三年後。阿部正弘は三十九歳で急死する)


 俺の中で、時計が動いている。


「阿部様に会いたい。早く」


「来年三月、交渉が始まれば機会が来る。それまで待て」


「分かりました」


(ならば三月までに、もう一手打てることを証明する。二月にペリーが来る——その前に交渉の詳細な見立てを準備する)


 俺は帰り道、江戸の空を見上げた。


 冬が深まっていた。来年の春が、どこか遠く感じる。しかし確実に来る。


「来年三月の直接面会を許そう」という阿部の言葉が、俺の中で灯火のように燃えていた。

続きも本日更新予定です。よろしければ次話もお付き合いください。

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