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〝また――失ってしまう〟




 そんな思いが過った。

 すぐにでも駆けつけたいのに、体はまだ、まともに動いてはくれない。

 ベッドに横たわっていれば、視界が徐々に曇り始めた。

 あれだけ飲んだというのに……。

 まだ足りなかったのかと思えば、どこかの景色が目の前に広がる。周りは静かで、ぼやけているが、そこが草原だというのはわかった。

 自分を見れば、腕の中に女を抱えていた。よく見れば、そいつは血まみれの状態。その女に、オレはすがりついていた。

 こんな記憶は無い。無いはずなのに――とても懐かしい、けれど虚しいような。いつもそれを体感していると、そんな気がしてくる。




『これで……いい、の』




 虫の息で、女は言う。




『だいっ、じょ……。また……あえ、るっ』




 微笑むと、そいつの体から徐々に熱が消えていく。握りしめた手からは力が抜け、ついに、女の息はこと切れた。




『っ……次、は。――――間違えない。次こそは必ず』




 護ってみせると声を張り上げ、女を抱きしめて泣いた。

 なぜ悲しいのかわからない。見ず知らずの女の為に、ここまで胸を痛めるなど……。

 女の顔が、はっきりと見えだず。抱きしめていたそいつは、護りたいと思う女と同じ色の瞳をしていて――大人びていたが、そいつは間違いなく、美咲と同じだと解った。

 途端、目の前がクリアになる。

 いつの間にか、俺は大広間に来ていた。

 見れば、首元に剣を向ける美咲がいる。

 地面を強く蹴り、彼女の元へ急ぐ。先程まで動かなかった体は、今ではいつも以上に動いてくれる。




 〝もう……間違うわけにはいかない〟




 オレの中で、そんな思いが肥大する。




「――――死なせない」




 もう、あの時の思いは御免だ。

 もう二度と、お前を失うわけには――。


「勝手に消えるんじゃない!」


 力いっぱい、目の前の彼女を抱きしめた。離したくない、失いたくないと思っていたのに……オレはまた、間違いを犯してしまった。




「お前にしては上出来だ」




 長が突如として現れ、美咲を奪われてしまった。

 助けに行ったオレを、長が許すはずもなく。ただ、美咲が飲み込まれていくのを、悔しさの中見ているしかできなかった。


 *****


 ようやく瓦礫が崩れると、上条の目に嫌な光景が飛び込んだ。球体に飲み込まれる人物。片腕しか見えなかったが、その手は細く女性的。この場に美咲がいないことを考えれば、彼女が飲み込まれたのは確実だった。


「あははははっ――。リヒト、少しばかり遅かったようだな? 姫はもうこの中だ。ようやく、本来の姿に戻してやれる」


「っ――アナタという人はっ!」


 瞳が輝く。途端、ディオスの足元に大きな穴が開いた。


「お前の力は届かぬ。カルムと人。そして命華――フィオーレが封じてきた念が蠢くこの場では、お前の力も糧にしかならぬ。まあその分、姫が戻るのが早まるだけだ」


 喜ばしいことだと笑うディオスに、上条は向かおうとする。だがまたしても、その行動を蓮華は制した。


「この場から去る」


「後から行きます。アナタは早く、シエロの介抱を」


「ならん!」


 威圧感のある声。

 気圧され気味の上条に、蓮華は冷たい視線を向ける。


「お前では敵わぬ。冷静さを欠いた状態では尚のこと。――ほら、早く来い! そちらの者たちもだ!!」


 上条の腕を無理やり引き、その場から逃げる蓮華。残っていた叶夜と青年も気圧されたのか、蓮華の指示に従いそれぞれその場から立ち去った。




「ついに――始めてしまったのですね」




 茶色の執事服を着た従者である少年が、ディオスに近付く。


「喜ばしいことだろう? これで、我の願いは成就されたも同然」


 怪しい笑みを浮かべるディオス。

 少年も嬉しいのか。微笑みながら、ディオスの隣に立つ。


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