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*****


「――そう。貴方の主は、ある一定の時期になると殺されるのね」


「あぁ。それも生を全うすることなくだ。まだ、己自身で死を選べるなら幸せだと言われたが……オレには理解し難い。どちらにしろ、死以外の選択肢が無いのだからな」


「そんなふうになっても、彼女は受け入れるのね。私なら恨みや憎しみで全部壊してやりたくなるけど――そーいった感情も乏しい、ってこと?」


 頷く青年に、やっぱりかと少女はため息をもらした。


「にしても……随分重い罰よね」


「罰、だと?」


「だってそーでしょ? これはもう【呪い】とは違うわ。

 あくまで推測だけど、貴方程の主なら、これだけの時間があれば解決するだけの力はあるはずよ。それがそのままになっているなら、彼女はそれを受け入れたってことになる。その時点で、それはもう【呪い】じゃない。【罰】になるのよ。

 ――まるで懺悔ね。これほどまで長い懺悔、聞いたことないわ。永遠に抜けられない、出口の無いメビウスの輪みたいなものよね。殺されること、ただ繰り返してるんだもの。死は悪戯に操作するものじゃないのに……神様だってやらないことをするんだから、相当な恨みよね」


「それも理不尽な理由なのだから性質たちが悪い――――?」


 青年は、周りをきょろきょろと見渡す。

 どうしたのかと聞けば、呼んでいると、青年は呟いた。


「主が――呼んでいる」


 途端、少女の目の前から、青年は姿を消した。


「契約はほとんど私にあるのに……。それだけ結びつきが強いってことか。一方的な忠誠心かは知らないけど、少なくとも、そーいうのって思われてるってことになるんだからね?」


 夜空に浮かぶ月を眺め、一人呟く。


「さてと――こっちも仕事しますか」


 地面を蹴り、屋根へと跳ねる。

 黒いロングコートをなびかせながら、少女は夜の闇に消えていった。


 *****


 黒い球体に近付くと、美咲は小さく、言葉を呟いた。

 瞳が輝き、もう一度、静かに言葉を紡ぎ出す。




「従者は――我の元へ」




 空間が歪む。しばらくすると、美咲の隣には、一人の青年が現れていた。

 黒く長い髪を後ろで一つ結びにした、左右瞳の色が違うその者は、美咲を見るなり、驚きの表情を見せた。


「早速ですが――あちらとことらを、分断して」


 彼は、これから起こることを瞬時に理解した。

 主はまた……死ぬつもりなのだ。

 ようやく会えたにも関わらず、こうしてすぐに別れがきてしまうことを、彼は心で悔いた。だが自分には、彼女の願いを……手助けすることしか出来ない。せめて、安息な死を迎えられるようにと、青年は余計な考えを排除する。


「――貴方の、望むままに」


 頭を下げる青年。

 そして体勢を低く構えると、四つん這いになり、体から殺気を放つ。




「――この場から逃げて!」




 美咲が叫ぶと同時。青年は勢いよく、周りの壁を破壊する。そして言われたとおり、美咲と近くにいた男を、二人きりにした。奥にいた者たちが侵入出来ないよう、念入りに結界を施して。

 美咲のそばに戻っても、青年の殺気は治まらない。それは、目の前にいる男こそが、美咲を破滅に導くきっかけになるからだ。


「手駒はもうないわ。――これで本当に、私は終わり」


 忍ばせていた短剣を、自分の首へ向ける。

 それを見たディオスは、怪訝そうに顔を歪めた。


「そうまでして、我から逃れたいのか」


「そのような感情は無いわ」


「ようやく手に入った体だぞ? 我の言うとおりにすれば、思うままなのだぞ?!」


「そのようなものに興味はないわ」


「もう少しで……完璧なお前が出来上がるというのに」


 ぎぎっ、と歯を食いしばる。

 苛立ちを隠しきれないディオスは、近くにあった瓦礫を蹴飛ばす。




「これもまた……一つの楽しみか」




 ニヤリ、口元が緩む。

 嫌な雰囲気を察した青年は、ディオスが動くよりも先に襲いかかる。




「――――うるさい獣だ」




 つまらなそうに、ディオスは青年の腹を一蹴りする。なんとか体勢を整えると、間髪入れず、青年は再び襲いかかった。

 爪を尖らせ、何度もディオスの顔目掛け振り下ろす。しかし、それが当たることはおろか、掠ることもない。青年が弱いからではない。単に、ディオスの方が遥かに上をいっているだけのこと。

 二人が戦っている隙に、美咲は自分の周りに陣を張り巡らす。半径一メートルにも満たない小さな布陣だが、今はそれでいい。

 最小限の大きさ。

 最大限の防御壁。

 ゆらゆらと、陽炎のような淡い光が美咲を包む。

 準備は整った。後は自分で心臓を突き刺し、完全に死ぬ数分間、結界を固定するだけ。発動者が死ねば、たいていの術はそこで切れてしまう。だが美咲には、その心配が無い。

 だから安心していた。

 この結界には、誰も入って来れないと。




「――――死なせない」




 背後から、何者かに抱きしめられる。

 ディオスかと思い振り向けば、

「勝手に消えるんじゃない!」

 まだ力が回復していないはずの、叶夜だった。




 ――ドクッ、ドクッ。




 心臓が、大きく跳ね上がる。

 手にしたはずの短剣は床に刺さり、美咲が施した陣を消し去った。




「?――――きょう、や」




 瞳が、色を失う。

 その隙を待っていたかのように、ディオスは青年の胸ぐらを素早く掴むと、床に叩き付け思いきり蹴り飛ばした。




「お前にしては上出来だ」




 美咲を奪うなり、叶夜にも重い蹴りを与える。


「戻ってしまったか。――だが、これで何も出来まい」


 怪しい笑みを浮かべると、美咲を球体へ放り投げる。

 豪快な音。かなりの衝撃が与えられたのだろう。苦悶の声をもらしながら、美咲の体はゆっくり、球体の中へ飲み込まれていった。


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