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「これ以上は――ここから、吸わないと」


 吸わせていた手を引くと、私は自分の首に触れて見せた。


「少量では、まだすぐに戻ってしまう。――お願い」


 両手を握り、懇願する。

 その言葉に、ようやく反応が返ってきた。




「かなり……量、がっ」




 それでもいいのかと、体を起こしながら叶夜君は聞く。


「今の私も、あの時の私も。あなたを救いたいという思いは同じよ」


「? 何を、言ってる」


「気にしないで。早く吸わないと、回復に時間がいるわ」


 叶夜君の前にいる彼女は、間違いなく私そのもの。だが叶夜君は、どこか妙な気がしていた。


「お前は……美咲じゃあ」


「話は後。今は、体を癒すことだけを考えて」


 真剣に迫られ、叶夜は余計な考えを消した。そして目の前にある首筋に、今度はゆっくり、労わるように歯をたてた。


 *****


「では、これからは私の指示に従うと。そういうことで構いませんね?」


「姉さんに言われたからね。オレはそれに従うだけ。――でも、姉さんがここに来たなんて、意外だった。自我もそんなにないかと思ってたからさ」


「今の状態であれば、問題はありません。一応、薬も持たせてありますから、救う手立てはあるかと」


 その言葉に、雅の口元は綻んだ。

 まだ、彼女の為にやれる。救うことができるかもしれない。希望が断たれていないこの状況を、彼は嬉しく感じていた。


「事は、本格的に動き出しています。貴方もスウェーテの血を引くなら、それなりのことをしてもらいませんと」


「って言われても……」


 正直、オレにはこの瞳ぐらいしかないですよ? と返事が返って来た。

 それ以外の力はないと言う雅に、上条は首を傾げた。


「アナタ……長ではないのですか? 雑華の中でも、スウェーテには、独特の力があるはずですが――いや。そうか。だから彼女には」


 一人納得する上条。しばらくして考えがまとまると、その考えを確かめるように問う。


「アナタは、何も受け継いではいないのですね?」


 雅は頷く。

 となれば、受け継いだのは同じ血を持つ片割れ。


「アナタは瞳の力しかなく、その他の身体能力も、特に抜きん出るものはないですね?」


 またしても頷く。

 それならば、彼女に現れた異変にも納得がいくと、上条の考えは、核心に迫っていた。


「アナタは、自分の一族の話を知っていますか?」


「話って言っても……王華と違って、人なんかと子ども作ったり、ってぐらい? 別に種族とかにこだわりはないようだったけど」


 やはり、彼は何も知らされていない。

 上条の考えは、この瞬間、核心に変わった。


「ヒカルさん……アンタ、何を知ってるの?」


 黙ったままの上条。

 しばらく思案した後、彼は雅に話をすることを決めた。


「これから話すことを、心して聞きなさい」


「それ、長くなるの?」


「少しは。ですが、エメさんのやろうとしていることを知る為にも、貴方の為にも――これは、聞かなければならない話です」


 *****


「これで、一応は安心ね。ちゃんと動いてくれたみたいよ」


 少女の言葉に、青年は安堵の表情を見せる。


「それと、こっちの仕事も、ちょっと厄介になりそうよ。境が曖昧になって困るわぁ~。と言うわけで――仕事、頑張ってちょうだいね?」


「わかっている。貴女には迷惑をかけているんだ。それ相応の働きはする」


「さっすがは優秀な使い魔! 貴方の主はいいわねぇ~こんなに思われてるんだから。ここまでくると、主従以外の感情なんて芽生えちゃったして?」


「ありえない」


 茶化す少女に、間髪入れず否定的な言葉が告げられる。


「主には、そのような感情は無い」


「そんなの、本人に聞いてみないとわからないでしょ? って言うより、言わなくてもわかるわ。貴方、とっても大事にされてたでしょ? それが何よりの証拠よ」


「違う! 主は本当に……」


 ぎっ、と唇を噛みしめる。

 いつも感情を表さない彼が、今日はやけに思いを表している。


「主は……解らないんだ。あの方にあるのは平等な精神。誰か一人を【特別】だとは理解出来ない」


「そこまで特別でなくても。ほら、親友みたいな感じとか。そーいったのなら、別に主従関係でも抵抗とかなっ」


「だから無いんだ! 主は……それを、理解してはいけない」


「? もっとわかるように言いなさいよ。話してくれたら、私だって少しは手を貸すわよ? あ、でもこっちの仕事が優先の時もあるから、そこはムリしない程度にってことで」


「…………本当、貴方はお人よしだ」


「お人好しで結構。さぁさぁ、白状しちゃいなさい!」


「…………全く」


 しょうがない人だと思いながら、ため息をつく。

 少女に急かされ、青年は静かに語り始めた。


「主は、一人の者を【特別】としてはいけない。それが――彼女に与えられた、永劫続く呪いだ」


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