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*****


 大広間の一室。光を完全に遮断されたそこには、小さなロウソクの灯りだけが存在していた。

 そこでディオスは、美咲を布陣の中央に寝かすよう叶夜に命令する。


「箱を――子宮の位置に置け」


 未だ、叶夜の手からは血が流れ出ている。箱に触れるたび、次第に皮膚の再生は追い付かず、肉がむき出しの状態になっていた。


「今度は箱ごと――姫を貫け」


 一瞬、叶夜の肩が震える。

 けれど、反論する様子はない。頷くと、美咲のそばに膝をついた。

 しっかりと、左手で箱を押さえる。未だ叶夜の手は傷付いていくばかりだが、美咲には何の害も与えていない。

 彼女にあるのは、先程付けられた胸の傷だけ。血は完全に止まっておらず、じわじわと、床に鮮やかな赤色を広げていく。




 ギぃヤぁぁーーーア!!




 貫いた途端、断末魔の叫びが耳をつんざく。

 箱からは声だけでなく、強力な風をも生んだ。間近にいた叶夜は弾き飛び、壁にめり込むほどの衝撃を放っている。

 その中でも――ディオスは笑っていた。

 目前に迫った望み。それがもうすぐ報われると思えば、こんな痛みは些細なものにすぎない。

 ――風が止む。

 部屋は静けさを取り戻し、ディオスの笑い声が響き渡っていた。


「ははっ――つい、に。あははははははっ! ようやく我の望みは成就された。幾千年と待ちわび、何度輪廻を繰り返したことか! 我だけの花――お前と言う花が、今目の前に!!」


 ふらつく足取りで、ディオスは布陣を目指す。




「――――ここ、は」




 呟いたのは女性。

 布陣に中央に横たわったまま、無表情でディオスに視線を向ける。


「ここは我の屋敷だ」


「貴方は――――誰?」


 黒く長い髪をした女性。

 視線をディオスから、反対の方へ向ける。そこには自分と同じ女性が寝かされており、彼女は贖罪の念に駆られた。

 あぁ……自分は出てしまった。

 こんなことにならないよう、全部飲み込んだというのに。

 悔しいと感じながらも、それが表情に出ることのないまま、女性は天井を仰ぎ見る。


「叶夜、剣を抜け。箱はそのまま中央に置き、姫は運んでおけ」


 ゆっくりとした足取りで近付き、叶夜は言われたとおりのことをこなした。


「ふふっ……もうすぐだ。もうすぐ、〝本当のお前が完成〟する」


 置かれた箱が、徐々にその形を変化させる。床に流れ出た血を吸い上げ、肥大する箱。そこからは、霧のように形の定まらないモノが、這い出ようとしていた。


 ◇◆◇◆◇


 ――体が重い。

 意識が浮上し、私が最初に感じたのがそれだった。

 視界が開けると、目の前には、自分に馬乗りになっている叶夜君の姿が見える。

 彼の表情は、苦痛に歪んでいた。

 私の首に伸びる右手を、己の左手で制しているという、なんとも奇妙な構図。それに私は、やわらかな声で問う。




「私を――殺すの?」




 叶夜君の青い瞳が、私を見据える。

 視線が絡み合うなり、私はそっと、叶夜君の頬に触れた。


「あの時会った子――だね?」


 返事はない。だが叶夜君は、微かに口元を動かし、何か言葉を呟いたように見えた。


「また、戻ってしまったんだね。私を殺したい? それとも――私の、貞操が欲しいの?」


「っ!?――――あぁ、……ぅ、ぅあ」


 呻き声がもれる。

 今にも泣き出しそうな彼に、私はもう一度、同じことを問う。




「貞操が――欲しいの?」




「ぁ、、っぐ……――――うぁぁああああああっ!!」




 頭を抱え、床へ倒れる叶夜君。もがき苦しむ彼に、私は寄り添いなだめ始めた。


「血をもらって。そうすればまた、あなたはあなたでいられる」


 口元に、自分の指を差し出す。けれど叶夜はそれを振り払い、己だけでどうにかしようと抗っている。


「彼の力は強いわ。――――ごめんね」


 無理やり指を口に入れ、なんとか噛ませる。しばらくすると、次は手の平を噛ませ、少しでも血が吸えるようにした。

 次第に落ち着いてきたのか。叶夜の呼吸が整いだす。


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