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大広間の一室。光を完全に遮断されたそこには、小さなロウソクの灯りだけが存在していた。
そこでディオスは、美咲を布陣の中央に寝かすよう叶夜に命令する。
「箱を――子宮の位置に置け」
未だ、叶夜の手からは血が流れ出ている。箱に触れるたび、次第に皮膚の再生は追い付かず、肉がむき出しの状態になっていた。
「今度は箱ごと――姫を貫け」
一瞬、叶夜の肩が震える。
けれど、反論する様子はない。頷くと、美咲のそばに膝をついた。
しっかりと、左手で箱を押さえる。未だ叶夜の手は傷付いていくばかりだが、美咲には何の害も与えていない。
彼女にあるのは、先程付けられた胸の傷だけ。血は完全に止まっておらず、じわじわと、床に鮮やかな赤色を広げていく。
ギぃヤぁぁーーーア!!
貫いた途端、断末魔の叫びが耳を劈く。
箱からは声だけでなく、強力な風をも生んだ。間近にいた叶夜は弾き飛び、壁にめり込むほどの衝撃を放っている。
その中でも――ディオスは笑っていた。
目前に迫った望み。それがもうすぐ報われると思えば、こんな痛みは些細なものにすぎない。
――風が止む。
部屋は静けさを取り戻し、ディオスの笑い声が響き渡っていた。
「ははっ――つい、に。あははははははっ! ようやく我の望みは成就された。幾千年と待ちわび、何度輪廻を繰り返したことか! 我だけの花――お前と言う花が、今目の前に!!」
ふらつく足取りで、ディオスは布陣を目指す。
「――――ここ、は」
呟いたのは女性。
布陣に中央に横たわったまま、無表情でディオスに視線を向ける。
「ここは我の屋敷だ」
「貴方は――――誰?」
黒く長い髪をした女性。
視線をディオスから、反対の方へ向ける。そこには自分と同じ女性が寝かされており、彼女は贖罪の念に駆られた。
あぁ……自分は出てしまった。
こんなことにならないよう、全部飲み込んだというのに。
悔しいと感じながらも、それが表情に出ることのないまま、女性は天井を仰ぎ見る。
「叶夜、剣を抜け。箱はそのまま中央に置き、姫は運んでおけ」
ゆっくりとした足取りで近付き、叶夜は言われたとおりのことをこなした。
「ふふっ……もうすぐだ。もうすぐ、〝本当のお前が完成〟する」
置かれた箱が、徐々にその形を変化させる。床に流れ出た血を吸い上げ、肥大する箱。そこからは、霧のように形の定まらないモノが、這い出ようとしていた。
◇◆◇◆◇
――体が重い。
意識が浮上し、私が最初に感じたのがそれだった。
視界が開けると、目の前には、自分に馬乗りになっている叶夜君の姿が見える。
彼の表情は、苦痛に歪んでいた。
私の首に伸びる右手を、己の左手で制しているという、なんとも奇妙な構図。それに私は、やわらかな声で問う。
「私を――殺すの?」
叶夜君の青い瞳が、私を見据える。
視線が絡み合うなり、私はそっと、叶夜君の頬に触れた。
「あの時会った子――だね?」
返事はない。だが叶夜君は、微かに口元を動かし、何か言葉を呟いたように見えた。
「また、戻ってしまったんだね。私を殺したい? それとも――私の、貞操が欲しいの?」
「っ!?――――あぁ、……ぅ、ぅあ」
呻き声がもれる。
今にも泣き出しそうな彼に、私はもう一度、同じことを問う。
「貞操が――欲しいの?」
「ぁ、、っぐ……――――うぁぁああああああっ!!」
頭を抱え、床へ倒れる叶夜君。もがき苦しむ彼に、私は寄り添い宥め始めた。
「血をもらって。そうすればまた、あなたはあなたでいられる」
口元に、自分の指を差し出す。けれど叶夜はそれを振り払い、己だけでどうにかしようと抗っている。
「彼の力は強いわ。――――ごめんね」
無理やり指を口に入れ、なんとか噛ませる。しばらくすると、次は手の平を噛ませ、少しでも血が吸えるようにした。
次第に落ち着いてきたのか。叶夜の呼吸が整いだす。




