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 血を飲むと、少しは叶夜の力も回復した。だが、まだ動き回れるほどの体力は戻っていない。

 ベッドに寄りかからせると、美咲は叶夜に語りかけた。


「あなたはここにいて。私は彼と――話があるから」


「っい、くな!」


 立ち去ろうとする美咲の腕を掴み、懇願する。けれどそんな彼を見ても、美咲の考えは変わらない。


「こうしなければ、手遅れになってしまう。あなたは、この体に生きてほしいでしょ?」


「?……何の話だ。お前は、美咲じゃないのか?」


「私はもう、あなたの知ってる私じゃない。でも、別人というわけでもない。私は現世の、日向美咲という十八年を生きた私でなく、過去に存在した私を再現されているの」


 ……訳がわからない。

 目の前にいるのは、確かにいつもの彼女じゃない。

 だが、過去の彼女というのは一体、どういうことなのか。

 いくら頭を働かせても、普段よりも思考能力が落ちた今では、答えを導き出すことは出来なかった。


「折角の命。大事に過ごしてね」


 叶夜の手から、するりと腕が抜ける。

 呼び留める声に振り向くことなく、美咲は一人、部屋を出て行った。目指すは大広間。そこにたどり着くと、そこには池が出来ていた。

 中央には黒く丸い球体が浮遊し、そこから黒い雫が滴り落ちている。

 そして中心には、逆さに吊るされた女性がいた。




「このようなこと……。あなたは何故、関係の無い者を巻き込むの?」




 しんと静まり返った部屋に、美咲の声が反響した。




「ようやく来たか。――――だが、まだ足りぬな」




 答えたのは、奥に据えられた玉座に座るディオス。楽しげな彼とは対照的に、美咲の表情は無に近かった。


「約束したはずよ。〝私で終わりにする〟と。――その為の封印だったというのに、あなたはどうして」


「知れたこと。我が欲しいのは、お前という花が開花する瞬間――神に到達しうる存在。否、この世界そのモノを凌駕する存在に成し得ること。だというのに、お前は自らそれを否定した。これは選ばれた者の役目。言わば正当な支配だ。今からでも、我と共に生きろ。そうすれば、お前の望みは叶えよう」


「――――そんなこと」


 もう、答えは決まっている。

 決意に満ちた瞳。その眼差しを見て、ディオスは深いため息をもらした。


「また、存在を消すか。目の前に母がいるというのに、見捨てるのか? 親不幸なことだな」


「あなたに彼女は殺せない。殺せば、凝縮された呪いが放たれ、その体も保てないもの。別な器があるにしろ、そこまでの危険を冒す価値は無い」


「――――試してみるか?」


 片手を上げると、池に異変が生じる。細く長いつたが、吊るされた女性を締め上げ始めた。

 じわり、血が滲む。蔦には棘があるようで、女性の体に、無数の傷口を作っていった。


「殺せずとも、生きている限り苦痛を与えることは出来る。それにだ。これだけの体、放っておくはずがあるまい? さぞかし、素晴らしい器を産んでくれよう。傀儡にするのもよかろうな」


 この男は、本当に己のことしか頭にない。

 静かに、空気を吐く。

 ゆっくり呼吸を整えると、美咲は強く、瞳を輝かせた。




「話は終わり。――私は、ここで終わる」




 迷いのない瞳。

 床を蹴ると、一瞬のうちに女性の元へ近付く。

 だが、蔦はそれをよしとしない。女性に触れるのを拒絶するように、美咲に幾つもの黒い蔦が襲いかかる。

 避ける美咲。当たらなかった蔦は、床に豪快な穴を開けた。これだけの威力が当たれば、簡単に骨など砕けてしまうだろう。

 体を反転させ、弧を描く。しなやかに避ける様は、まるで猫のように。それでいて、鋭い雰囲気を放つ。鋭い瞳は、獲物を狙う獅子のような強さを持っていた。


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