表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
82/189

.


「?……あのう、叶夜君?」


 明らかにおかしい。聞こえているのに、叶夜君は尚も顔を背け続けていた。

 もしかして――呼び捨てにしないと、振り向かないつもりかなぁ?




「――――叶夜?」




 思い切って、呼び捨てにしてみた。

 すると、叶夜君の体がビクッと反応を示し、目を合わせたかと思えば、


「上目遣い……するな」


 突然ぎゅっと、顔を胸に押しつけられた。


「な、なんですかいきなり!?」


「急に呼び捨てするからだ」


「だからって、そんなに押さえたら痛いですよ!」


「名前は、呼び捨て以外にしてくれ」


 俺がもたないと、なんとも疲れた様子で言った。

 とりあえず、名前は今まで通りの叶夜君でいいけど、敬語の方は徐々にということで話はついた。ひとまずは、この場から移動することが先決だ。

 私を抱えると、辺りの様子をうかがいながら、叶夜君は素早く森を抜けて行く。


「どこに向ってるんですか?」


「ここから遠いが、街があった場所に向っている。そこになら、別な道があるかもしれない」


 それきり、私たちは会話を止めた。話し声で気付かれる可能性もあるから、慎重に行こうと。必要以外の会話は、極力避けるようにした。




『――――ダメ』




 頭の中で、声がする。


『ダメ。――そこには、アイツがいるわ』


 その声には聞き覚えがあった。

 叶夜君に血を渡せばいいと、助言してくれたあの声。

 危険だと言うその言葉に、私は慌てて声を上げた。


「きょ、叶夜君、そっちに行かないで!」


「そうは行っても、他に道は無いぞ?」


『アイツはもう、近くにいる。そこから離れて』


「とにかくダメ! 声が聞こえるの……前にも、助言してくれた声だから。きっとそっちに行ったら待ち構えてる!」


 必死に言う私に、叶夜君は足を止めた。


「わかった。それなら別の道を」


 きびすを返し、来た道を戻り始めようとした途端、




「――――っぐ!?」




 叶夜君の足元が、ガクッとふらついた。

 バランスが崩れる体を反転させ、叶夜君は私をかばうようにして、地面に倒れ込んだ。


「っ……ケガ、無いか?」


「わ、私は、大丈夫。叶夜君の方こそ……」


 明らかに顔を歪める姿に、私は心配で堪らなかった。それでも叶夜君はなんとか笑みを見せ、大丈夫と言いながら体を起こした。


「俺より……自分の身を、心配しろ」


 そう言い、叶夜君はまっすぐ前を向いた。視線の先には……あの中年男性が、私たちに向かって歩いていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ