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「俺がまともなうちに……頼む!」
「そん、なの……」
「このままだったら、俺はきっと、君を殺してしまう。一つの誓いじゃ足りなかった…俺の落ち度だ。だから早く君の手でっ!?」
「バカなこと言わないで!」
怒りが込み上げた私は、考えるよりも先に、叶夜君の頬を叩いていた。
約束……したのに。
護るって、言ったくせに!
「なんで……そんなこと言うの?」
「さっきも言ったが、一つの誓いじゃ意味をなさいんだ! それだけじゃない。俺の体は、大量の薬を投与されてる。今は血のおかげでまともでいられるが……それも、いつまで続くかわからないんだぞ!?」
「血があれば大丈夫なんでしょう!? だったら……勝手に約束破らないで!!」
そんな私を見て、叶夜君は驚きの表情を見せた。普段見せない強い口調に、目を見開いている。
「勝手に約束して、勝手に破って……「護る」って言ったのは、どこの誰!? 適当な気持ちで、私のそばにいたの!?」
次第に、俯いてしまう叶夜君。
しばらく無言の時間が流れ、私はようやく、自分がなにをしたのかを理解した。
「ご、ごめん、なさい……。叩くつもりは、なかったんです」
「確かに――約束、したんだよな。今から――言うとおりにしてくれ」
そう言って顔を上げると、叶夜君はニヤリと、口元を緩めていた。途端、雰囲気ががらりと変わるのがわかった。
「何をすれば、いいですか?」
「俺の名前を、呼んでくれ。契約の時にも言った――本当の名前で」
「それって……」
『―――ノヴァ、なんてどう?』
お姉さんの言葉が、頭を過る。
きっと叶夜君が言ってるのは、その名前だ。
「あの人がつけてくれた名前だ。叶夜っていうのは、仮の名前に過ぎない。――ずっと、呼ばれることも無かったがな」
どこか淋しげに笑う叶夜君。それに私は、優しく微笑みかけた。
「……知ってる。私、その時見てたから」
「見てたって」
「理由はわからないけど……私、その時を知ってるの。だから、契約する前から本当の名前も」
知っていたと、私は答えた。
すると叶夜君は、嬉しそうに微笑んだ。
「そっか。じゃあ、意味は知ってるか?」
「意味って、名前の?」
「知らないみたいだな。意味をわかったうえで、名前を呼んでほしい」
頷くと、叶夜君はもっと近付くようにと言う。それに従うと、私の頬に片手を添え、
「オレの名はノヴァ。――新しい、星の意味を持つ」
耳元で、いつもより艶がある色っぽい音声で囁いた。普段とは違うその声に、私は一気に心臓が跳ね上がった。
胸の奥から、きゅんとするような。痺れるような初めての感覚が、体中を駆け巡っていた。
「わかったか?」
「は、はい……」
「じゃあ、少し離れてくれ」
それに従い、叶夜君から距離をとる。
「それぐらいでいい。――名の意味を連想しながら、自分の所に来いと呼んでくれ」
ただ、名前を呼ぶだけなのに――。
やけに心臓がドキドキする。真っすぐ見つめられているせいか、徐々に緊張感が、体を支配していく。
数回深呼吸すると、意を決して、私は名前を口にした。
「ノ、ノヴァ……私の所に来て!」
頭に、名前の意味を思い浮かべながら言う。すると、自分の左手に、熱が帯びはじめるのを感じた。
「? これっ、て――っ?!」
「うわぁぁぁああーーー!!」
叫び声と共に、鎖が引き千切られる。
それに驚いていると、一瞬にして、視界が遮られた。何が起きたかわからなくて、その場にじっとしていれば、
「契約……しといてよかった」
安堵の声が、耳元で聞こえた。
体を包むようにある腕に、ようやく私は、抱きしめられていることに気付いた。




