.
「ま、待って下さい! どこに行くんですか? このままだったら、お姉さんは」
――――死んでしまう。
そんな不吉な考えが、頭を過った。
「……ここには、残れないの。今ここに来れたのは、神様のちょっとした悪戯。本来ありえない奇跡を、体験させてもらっているのよ。そんな奇跡を体験出来たのも――貴方のおかげ」
私の――おかげ?
思わず、手を緩めた。
すると今度は、お姉さんの方からしっかりと手を握り返され、まっすぐ、視線を向けられた。
「そうよ。貴方という存在があったから、私や、私以外の者がしてきたことも、無駄に終わらずにすむの。全てを……終わらせることが出来る」
「終わらせるって……王華と雑華の争い、ですか? そんな大きなこと」
「ふふっ。貴方は、自分の力を信じていれば大丈夫。――そうだ。一つ、貴方に頼みたいことがあるの」
何かと思っていると、そっと顔を近づけてきて、
「っ!? そ、そんなこと!」
驚きの言葉を、告げられた。
「もしもの時は、ね?」
それだけ言うと、お姉さんは笑顔で、あっと言う間に去って行った。
……できるわけ、ないよ。
お姉さんの言葉が、頭を駆け巡る。
出来ることなら、そんなことが起こってほしくないのに――。
『私を――殺してね』
もしもの時があるんじゃないかって、考えてしまう。
どうしようもない思いに、私はただ、涙した。
自分の存在とはなんなのか。
悲しくて、悔しくて……。
お姉さんを行かせてしまった自分が、許せなかった。
*****
赤い月が輝く夜。
叶夜は、自分の世界に戻っていた。
「――早かったな」
「急ぐようにと言われましたので。今回は、どのような用件で?」
いつものように、淡々と答える叶夜。
その質問に、長であるディオスは、ニヤリと怪しい微笑を浮かべる。
「命華の様子を聞きたいだけだ。本来ならば、すぐにでも連れて来てもらいたいのだがな」
「いずれは連れて来ます。ですが、今は体が思わしくありませんので、まだお待ち下さい」
「なるほど。そういうことなら仕方あるまい」
「――要件が済んだのであれば、戻ります」
「なんだ、そんなに早く戻りたいか?」
場の雰囲気が、冷たく刺さるものへと変わる。
身構える叶夜。その様子に、ディオスは軽くため息をもらす。
「今の状態では、行かせられぬな」
「っ! 体は、問題ありません。薬もありますし、検査も済んでっ」
「そんなことではない」
ずんっ、と。腹の底に響くような、重たい感覚。冷汗が叶夜の頬を伝い、嫌な胸騒ぎが、体中を駆け巡っていく。
「…………何が、言いたいのですか」
おそるおそる問いかければ、ディオスは怪しく、口元を緩めた。




