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◇◆◇◆◇


 徐々に体が慣れてきたのか、痛みの感覚が、緩やかになってきた気がする。


「――――は、ぁ」


 まだしっかり言葉を口にできないものの、痛みが無いことを思えば、これぐらいどうってことない。

 ゆっくり体を起こすと、水を飲もうと台所に向かう。でも、一度ソファーで休んでからでないと辿り着けないほど、体力は戻っていなかった。

 コップ一杯の水を飲むと、再び、ソファーで休む。ちょっとのつもりだったのに、思ったより動くことができない。

 ……ダメ、だ。もうここで。

 寝てしまおう、とそんな考えに至る。

 一度そう思ってしまえば、体は素早くその態勢になり――意識は、そこで途切れてしまった。


 ――――――――――…

 ――――――…

 ―――…




「――? ――ぃ」




 声が、聞こえる。

 目を開けて見ても、眩しくてよく見えない。


「息はある、か」


 首に、何かが触れている。

 目の前にいるのは誰なんだろうと思っていれば、


「どうして――俺の前に現れる」


 冷たい眼差しが、私を見下ろしていた。

 この子、どこかで――。

 目の前にいたのは、見覚えのある少年。はっきりとその顔立ちが見え出した時、夢で見た少年だということに気が付いた。

 顔を左右に動かせば、緑の草が目に入る。どうやら私は、芝生の上に仰向けになっているらしい。

 ――また、来たんだ。

 できれば前のようなものは見たくないけど……今度はどうなんだろう。

 おそるおそる体を起こせば、そこには嫌なものはなくて。


「お前、話せないのか?」


 そばに少年がいる以外、本当になにもなかった。よく見れば、今日は物騒な物は持っていない。とりあえず、切り付けられることは無さそう。


「話せるなら話せる。話せないなら首を縦に振れ」


「――――は、話せるよ」


「なら答えろ。――何故、俺の前に現れる」


 隣に片膝を付き、少年は質問を続ける。


「初めて会った時、確かにお前を切った。なのに突然姿を消し、次に会った時には傷も無いだなんて……」


 どういうことだ、と眉間にしわを寄せた。

 聞かれても、私自身理由なんてわからない。だから正直に、自分でもわからないと伝えた。


「ごめんね、自分のことなのに」


「……同じじゃないのか」


 小さく、何か呟く少年。不思議そうな表情を浮かべれば、少年は気にしなくていいと言う。


「わからないならいい。――自分で自分のことを理解出来るのは、ごくわずかだ」


 一瞬、少年の瞳に影が宿った気がした。心配になり手を伸ばすと、少年はハッとした表情をし、その手を弾いた。


「用が無いなら、もう現れるな。――でないと」


 再び、冷たい瞳が向けられる。――そして。




「次は――ここを切る」




 そっと、首に触れられた。

 この子……本気、なんだ。殺すことを躊躇しない。まだそんなことを続けているのかと思ったら、少年を見るのが辛くなってくる。


「――なんとも、思わないの?」


「前にも答えた。命令に従う、それだけでいい」


 予想はしてたけど……やっぱり、今も変わらないんだ。

 でも、あんなことを続けてたら、いつか殺されちゃう。

 本人の意思で殺しているなら、かばおうとか、心配する気なんて起きないけど。この子自身も、本当はあんなことしたくないんじゃないかって。

 さっきも思ったけど、私の首に触れた時、一瞬目をつぶっていた。思い返せば、相手に切りつける時にも、そんなことをしていた気がする。

 そういうことをするってことは、傷付くのを見たくないとか――少なくとも、多少は殺したくないって気持ちがそうさせるんじゃないかと思う。

 私に背を向け、歩き始める少年。途端、考えるよりも先に、私は少年に駆け寄り、背後から抱きしめていた。




「もう……殺さないで」




 これ以上、人殺しなんてしないで。

 そんなことは、絶対続けちゃダメなんだから。


「殺すたびにきっと……貴方が、壊れちゃう」


「――――壊れる?」


 興味があるのか、少年は首をこちらに向ける。それを見て、私は少年と向き合う体勢になった。


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