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薬を断って、二日目の夜。
痛みの感覚は長く、数分だったのが数十分になり、痛みも増してきてる。
「……、……っ!」
次第に、声を出すのも苦しくなって。
息をするのも、目を開けているのも――全てが、痛みに感じてしまう。
『―――…、から』
どこからか、声が聞こえる。
前に聞いたことがある優しい声に、私は自然と、その声に神経を集中していた。
『―――行くから』
声が、はっきりと聞こえだす。それは女性の声で、大人の女性といった印象を受ける。
『もうすぐ――行くから』
途端、私は飛び起きた。
嫌な感覚……何がどう嫌なのか説明できないけど、とてつもなく嫌なものが、全身を包んでいた。
声に集中していたせいか、今は少し、痛みも和らいできていた。
気分を変えようと、起き上がりそばの窓を少し開けた。
「――――はぁ~…」
大きなため息が出る。
あとどれぐらい耐えればいいのか……次の痛みを思うと、気分が滅入ってしまう。
――ブー、ブー。
「っ!?――スマ、ホ?」
ただのスマホの音に、やけに驚いてしまった。どうやらまだ、神経が過敏になっているらしい。
ベッド横にある机。そこに、私のスマホは置かれていた。手に取れば、先生からのメールが。見ると、【冷蔵庫にある物は、自由に食べて構いませんので】と書かれていた。
先生も忙しいだろうに。
気遣ってくれたことに感謝をし、ありがとうございますと返信をするなり、私はベッドに横たわった。
また痛みがきたわけじゃないけど、上半身を起こすだけでも、結構体力を消耗してしまったらしい。
これなら――眠れる、かも。心地いい感覚がやってくる。少しでも痛みから離れたくて、私はすぐに、その感覚に身を委ねた。
*****
美咲がいる世界とは別の世。ディオスから言われた通りの洋館まで来ると、叶夜はその足を止めた。
命令されたからというのもあるが、叶夜には、逃げ出したという報告に納得がいっていなかった。それは、逃げ出した雑華というのが、叶夜のよく知る人物だったからだ。
彼女なら逃げるはずがない。目的があると知っている叶夜だからこそ、疑問を抱いていた。
「――ここで、生活してたのか?」
話では、隔離はしているものの普通の部屋だと聞かされていた。けれどそこは、部屋というには不似合いな場所。頑丈に作られた分厚い鉄の扉に、窓があるものの、外なんて見ることの出来ない大きさで、壁は、冷たい石で造られていた。
「――――外からか」
扉は破られておらず、外から誰かが開けたとしか思えない。
部屋を見渡せば、そこにはまだ新しい血肉が散乱している。この肉片になった者が開け、その後殺されたか。それとも――これを従えた〝地位が上の誰か〟なのか。
「っ! こんなんじゃ……まともな治療なんて」
嫌な臭いが充満し、血以外の薬品の臭いが鼻を突く。
女性がいた部屋には何も置いてなく、あるのは質素な寝床と、治療用と思われる壊れた器具。それを見て、叶夜は辛そうに顔を歪めた。実験台にされたんだと、容易に想像出来たからだ。
叶夜自身、幼い頃から薬を飲んでいることもあり、実験台になることも珍しくなかった。だから部屋の物を見て、ここでどれだけのことが行われていたのか、多少なりとも想像が出来た。
「?――――これは」
一つの資料に目が留める。そこに書かれた【魂の修復】という部分に、興味をそそられた。半分以上は読めなくなっているものの、断片的にはなんとか読め、解読出来ないこともない。
そこには、死んだ者の魂を戻す為の実験内容が記されている。雑華の治療の為のものかと思って目を通していたが――どうやら、全く違うものらしい。
いくつか残っている資料を集めると、叶夜はそれを懐に入れた。
地下から上がり外へと出ると、外の空気を吸い、今まで嫌な臭いを吸った分、新鮮な空気を体に取り入れていた。
「――何、してるんだろうな」
誰に言う訳でもなく、小さく呟いた。
詳しく調べろと言われてないのに、自分は命令以外の行動を取っている。自分でもわからない行動に、叶夜は迷っていた。
それにこのまま……美咲に関わり続けていいのかとも。
時間の無い自分には、ずっと護ることが出来ないとわかっている。
「いつまで……保てるだろうな」
この命は、期限付きの仮初め。自分でこの使い道を決められるのなら……せめて。決意にも似た感情を、叶夜は抱いた。
「――約束は、守らないとな」
自分でした約束を思い出し、叶夜は軽い笑みを浮かべながら、洋館をあとにした。




