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 着いたのは、三階ほどの高さの建物。誰かがいる様子は感じられない。それでも一応開けてみようと手を添えれば――扉は、いともあっさりと開いてくれた。

 お、お邪魔しまーす……。

 声を出したつもりだったけど、やっぱり辺りに響くことはなかった。


 「…、……!――」


 どこからか、音が聞こえる。それは上からではなく、自分が今いる場所から近いようだった。耳を澄ませ、音がどこから聞こえるのかを探せば――それは、下から聞こえているようだった。

 道はないかと探していれば、地下へと行ける階段が。明かりがなく、少し薄暗いそこは、思わず足がすくんでしまうような、嫌な雰囲気を感じた。

 きっと……見なくちゃいけないんだよね。

 前に、女の人が言っていたことを思い出す。これは現実で、私はそれを見なくちゃいけないんだって。

 意を決し、地下へと続く階段を下りていく。すると――。




「?――――っ!?」




 明かりが見えたことに、ほっとしたのも束の間。




 ……なに、これ。




 その光景に、目を疑った。

 鉄格子の中で鎖に繋がれている人。幾つもの管に繋がれ、もはや生きているとは言えないような状態の人。別な鉄格子の中を見れば、血を抜かれているのか、青ざめ痩せこけた人。そして狂ったように、もがき苦しむ人がいた。

 目の前の光景が衝撃過ぎて、私はしばらく、その場に固まっていた。

 時々、鉄格子の中から手や顔を覗かせる人がいたけど、周りの人は、私の存在に気付いていないようで。やっぱり私が見えるのは、あの時見た女の人だけらしい。




「――産まれたようだな」




 別の部屋から、声が聞こえる。

 そこへ行く道は綺麗で、明らかにこことは違っていた。

 ……普通の人が、いるの?

 少なくとも、ここより向こうは普通の場所だろうと思い、なかなか動かない足に命令し、歩こうとする。

 でも、私のことが見えないとわかっていても、やっぱり怖さは消えなくて……。万が一の注意をしながら、声が聞こえた部屋へ、ゆっくりと足を運んだ。




「――ようやく成功したか」




 白衣を着た男性は、自分の目の前に運ばれた赤ん坊を見て、怪しく微笑む。それは父親というよりも、私には何か、違うものの見方をしているようにしか見えなかった。


「すぐに薬を試せ。副作用が出るなら、そのまま処分して構わない」


 な、何考えてるの!?

 無駄だってわかってる。でも、文句を言わずにはいられなくて、私は男性に、届かぬ声で叫んでいた。

 処分だなんて、そんなことが許されていいわけない!!

 別室へ連れて行かれる赤ん坊。急いで後を追ってみたけど、目の前が歪み始めていく。せめて赤ん坊を見つけるまでは! と走っていたものの――結局、見つけられないまま。私の視界は、また閉ざされてしまった。

 ――気が付くと、そこはさっきまでいた建物の一階。

 周りを見渡せば、多少老朽が進んでいるものの、さっきの場所と同じということが見てわかる。

 私は再び、地下へと走った。あの赤ん坊がどうなったのか、どうしても気になってしかたがなかった。


「――次は、別の薬を使う」


 さっきと同じ声が、奥の部屋から聞こえた。

 そっと中をうかがうと――そこには、十歳ぐらいの少年が寝かされていた。周りには数人の男性たちが、何やら作業をしている。近付いて見ると、一人は少年から血を抜き、また一人は、何か薬のような物を注射していた。

 少年の体を固定すると、中にいた人たちは部屋を出て行く。その隙に、私は少年の顔を覗き込んだ。その顔は、とても無表情で。まるで死んでいるかのように、覇気が感じられなかった。

 虚ろな瞳には、なにが映っているのか……。どこか遠くを見たまま、少年は、真上ばかりを見ていた。

 あれ。この子って――?

 見覚えがある、と、そんな気がした。

 どこで見たんだっけ? 確か――。

 しばらく考え込んでいると、以前見た夢のことを思い出した。歳の頃も、顔も似ているような気がする。だとしたら――これからこの子は、また、人を殺し続けるの?

 よく見れば、体には痛々しい傷が幾つもある。きっと、今まで色んなことをされたんだろう。少年の体には、生々しい傷が幾つも目に留まった。

 なんで、こんな光景ばっかり……。

 私にこれを見せている何かがあるなら、それを恨まずにはいられなかった。勝手に見えてしまうとも言われたけど、どうして自分にそんなことができるのか、理由もわからないまま見るにはとても悲し過ぎる。せめて理由だけでも知りたいと、そう願わずにはいられなかった。

 ――――痛かった、よね。

 そっと、少年の手に触れる。少年に私が見えてるかわからないけど、少しでも、こうしてあげたかった。




「――あの薬にも耐えたか」




 さっきの男性たちが、嬉しそうな表情を浮かべ部屋に戻って来た。


「これならもう、次の段階に進めるな。――人格形成に取り掛かるぞ」


 男性がそう言うと、周りにいた者たちは、少年を寝かせているベッドごと、別の場所へ移動させようとする。それにもついて行こうとしたけど……再び、目の前が歪み始めてしまった。時間切れだとわかった私は、行けるとこまで行こうと、少年のそばに寄り添う。

 ――すると、私が見えるのだろうか。少年と一瞬、目が合った気がした。それが嬉しくて、思わず安堵の表情を浮かべれば、少年は少しだけ、笑い返してくれたように思えた。


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