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 追いかけなきゃ……あの子、なんとかしないと!




 止める術なんてない。何か考えがあるわけじゃないけど、ただそれだけが、私の体を動かす原動力だった。

 ゆっくりと、腕に力を込める。地を這うよう進んでいけば、ようやく、少年の後ろ姿が見えてきた。


「ッ、シネェー!!」


「お前らは――排除」


 そこで見たのは――殺し合い。たった一人の少年相手に、数人の大人たちが襲いかかっていた。

 ある者は鎌を持ち。またある者はハンマーを手に。力の限り、それを少年に向けていた。でも、そんな攻撃をもろともせず、少年は簡単にかわしていく。そして数回会話をすると――容赦なく相手の首、腕、足などを切断していった。


「は、ははっ……オレの、、、手。オレの手、手、、、がっ!」


「っ、あ、……あぁぁああーー!」


 あまりのことに笑いだす者。絶叫する者。それを見ても、少年の表情は全く変わらない。機械か人形なんじゃないかって思ってしまうほど、感情というものが皆無だった。




「――――排除、終了」




 小さく呟いた言葉。その言葉のとおり、目の前にいた大人たちはみな殺され――ただ、血の海が広がるだけとなった。

 そんな中心に、無表情で立つ少年。

 怖いのに。話しかけることなんてできないって、自分でも思ってたのに。




「――――どうして」




 声が、辺りに響く。

 そして今思っていることを、言葉に発していく。




「どうして……殺したの?」




 涙ながらに発した、小さな言葉。聞き取れるかわからないほど小さなものだったのに、今までどんなに呼びかけても私を見なかった少年が、私の目をはっきりと見ていた。


「どうして? そんなこと、考えない」


「考えないって……」


「命令どおりにする。それだけでいい」


「そんなこと……」


 命令されたから、殺したの?

 命令されれば、なんでもするの?


「悪いことだって――わからないの?」


 その問いに、少年は初めて表情を変えた。とは言っても、一瞬眉を動かしただけの、ちょっとした変化に過ぎない。


「――――悪い、こと」


 自分に問うような、小さく発した言葉。

 でも、言葉の意味を理解していないのか、何度も同じ言葉を繰り返していた。


「本当に、わからないの?」


「わからない? なにが?」


「――殺しちゃうことが、悪いことだって」


 無言の少年。

 どうなんだろうと答えを待っていれば、微かに首を傾げた。

 ……やっぱり、わからないだけなんだ。

 だったら教えなきゃ。今のことが、どれだけいないことかってことを。

 何とか立ち上がり、よろよろとした足取りながらも、少年に近づいた。何の反応も見せないと思えば、私が目の前で来たところで、


「邪魔者を――するな」


 冷たい瞳が、私を見つめる。そして――。


「いっ?!」


 左手に、痛みが走った。見れば、左の手の平が大きく、刃物で斬りつけられていた。

 恐怖で足がすくみ、その場から一歩も動けない。このままここにいたら危ないってわかってるのに。また斬られるかもしれないと思っても、体はうずくまり、逃げるという行動をとってはくれなかった。

 頭上に刃物を掲げる少年。

 虚ろな瞳の少年は、他の大人と同様なんの躊躇もせず。

 ――――ひゅん。

 勢いよく、私目がけ振り下ろした。


 ――――――――…

 ――――――…

 ―――…


「――――いやっ!」


「!? ど、どうした?」


「?――――ここ、って」


 気が付けば、そこは自分の部屋。寝かされていたらしく、隣には、心配そうに私を見る叶夜君がいた。


「うなされてたが……嫌な夢でも見たのか?」


「は、はい。とても嫌なもので――?」


 あれ? 何を見てたんだっけ――?

 さっきまで覚えてた。体の感覚も。疲れたとか。悲しいとか。そういうことは覚えているのに……肝心の内容が、思い出せなかった。


「――忘れた、みたいです」


「嫌なものなら、早く忘れてしまうに限る。――今は、体に異常は無いか?」


「あ、はい。ちょっとすっきりしない以外、特には」


「そうか。左手の方は、きちんと手当をしてあるから。一週間もすれば、綺麗に傷跡も残らず治るようだ」


 見ると、確かに左手は、綺麗に包帯で巻かれていた。

 ちょっと動かし辛いけど、利き手は動かせるんだから、なんとかなるだろう。


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