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「――ここに、何かあるんですか?」




 周りを見る余裕ができた私は、辺りを見渡した。そこは、朽ち果てた家が立ち並ぶ場所。雰囲気からして、村か町だったんじゃないかと思う。

 私を下ろすと、叶夜君は目の前に私に手を差し伸べた。


「ここはあまり、足場がよくない」


 どうやら、転ばないようにと気を使ってくれたらしい。こういう気遣いができるのって、すごいなぁって思う。


「ありがとうございます」


「今更だが、嫌なら断って構わないからな?」


「嫌だなんて。こうやって気遣ってもらえて、すごく嬉しいくらいで――?」


 数歩進んだ途端。また、不思議な感覚が体を走った。マンションに着いた時よりも、はっきりその感覚がわかる。


「――美咲さん?」


「えっ……?」


「どうかしたのか? 体の調子でも悪いとか」


「い、いえ! 自分でも、うまく説明できないんですけど……なんだかこう、不思議な感じがして。嫌な感じはしないんですけど、妙に気になってしまって」


 話をしていると、前を歩いていた先生が立ち止まった。

どうやら目的の場所に着いたらしく、先生は真剣な様子でこちらを振り向いた。


「――日向さん」


 名前を呼ばれ、私は思わず、びくっと体が震えた。

 いつもの先生の雰囲気とは違い、どこか緊張を帯びた声に感じたから。


「ここから、少し先に石碑があります。――わかりますか?」


 指差す方向には、確かに、小さな塊のような物が見えた。


「ここから……一人で、あの石碑に触れて下さい」


「!? ひ、一人で……ですか?」


 意外な言葉に、私の声は少し震えていた。

 ここから石碑まで、軽く見ても50mはあろうかという距離。

 あそこまで、一人で歩くなんて……。

 周りは深い木々に囲まれていて、いつなにが出てもおかしくない雰囲気。またあの影が出るんじゃないかという恐怖が、頷くことを戸惑わせていた。

 どう、しよう……。ここまで来て、やらないわけにはいかないだろうし。

 次第に体は震え始め、どうしたらいいものかと戸惑っていれば、




「俺が――付き添います」




 そんな言葉が聞こえた。


「い、いいんですか?」


「あぁ。俺は問題無い」


「でも、先生は一人でって……」


「検査をするのは美咲さんだが――それぐらい、許されますよね?」


 その問いかけに、先生は険しい表情を浮かべていた。

 やっぱり……一人でやるしかないのかなぁ。




「――リヒトさん」




 叶夜君が、先生の名前を呼ぶ。それにようやく、先生は反応を示した。


「念の為聞きますが……貴方はまだ、発症前ですか?」


「えぇ。薬は飲んでいますが、まだ発症前です」


「今、どのぐらい生きていますか?」


「正確にはわりませんが……おそらく、200ほど」


「に、200!?」


 思わず声を出してしまうほど、私は驚いてしまった。

 人じゃないってことはわかってたつもりなのに、改めてそういう事実を聞くと、やっぱり驚きを隠すことはできなかった。


「リヒトさん、俺も構わないですよね?」


「…………」


「リヒトさん」


「…………わかりました」


 根負けしたのか、先生はようやく叶夜君の提案を受け入れた。


「い、今更ですけど……二人で行っても、大丈夫なんですか?」


「二人で行くことに問題はありません。ただ……行く者が“どの種族なのか”、ということが問題なだけなのですよ」


 どの種族か? 確か叶夜君って……。


「王華だと……なにか、あるんですか?」


 覚えていたことが意外だったらしく、二人は少し驚いた表情を浮かべた。


「まぁ、そういうことになりますね。とりあえず、今のところ問題は無さそうなので許可しますが――危険だと思ったら、キョーヤはすぐに引き返しなさい」


 真剣な眼差しを向ける先生。それを見たら、叶夜君が行くということが、いかに危険なことなのかわかった気がした。


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