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「危ないかもしれないのに……すみません」


「気にしないでくれ。俺が、勝手に付いて行くんだから」


 勝手にだなんて。本当、優しすぎるよ。


「……ありがとう」


 その気遣いに、私は小さくお礼を言った。いつもは敬語だけど、ちょっと頑張って、敬語なしで。


「あまり、ここに長いは出来ません。二人とも、くれぐれも気を付けて」


「「はい」」


 二人して頷くと、ゆっくり、石碑を目指し歩き始めた。

 あと、40m。辺りはとても静かで、二人分の足音が、いやによく響く。聞こえるのは、ザッ、ザッという、靴が土に擦れる音。そして時々、砂利や草を踏みしめる音だけ。

 あと、30m。ここまではなにも無く、森の方を見ても、怪しい人がいるようには見えない。

 あと、20m。徐々に、石碑の形がハッキリと見えだす。少しだけ……空気が冷たい。会話をしないまま歩いているからか、緊張感にも似た雰囲気が漂っている。

 あと、10m。もう少しで着くと、そう思った時――ふと、違和感を覚えた。


「……、……っ」


 叶夜君の様子が、いつもと違う。表情こそ変わりないけど、呼吸が少し荒いと思っていれば、叶夜君は、その場に膝から崩れてしまった。


「っ、……わ、悪い。ここまで、しか」


「そんな、謝らないで下さい! ここまで来てもらえれば充分ですから。――すみません。気付くことができなくて」


「……気にするな。それよりもっ、検査を、しないと」


 そう言って、叶夜君は石碑ですることを教えてくれた。

 石碑に着いたら、そこにある球体の石に左手を添えること。そしてそこで、とある質問に答えるのだと。


「わかりました。それじゃあ行って来ますから……ここで、大人しくしてて下さいね?」


 無理してついて来そうな気がした私は、月神君に念を押す。それに頷くのを確認してから、歩きを再開させた。

 ――あと、5m。

 ここまで来ると、今までの道とは違い、少し小高く土が積まれていた。

 ゆっくり、緩やかな坂を上がって行く。あと、3m。2、1――ついに、目的の場所に着いた。


「…………はぁ」


 思わず、深いため息がもれる。それだけ気を張っていたらしい。

 両手に力を込め、よし! と気合い入れた私は、改めて、石碑に目をやった。

 そこは、想像していたよりも質素な場所だった。

 もっと飾りとか置いてあるのかと思ったけど、石碑と言われた物には文字も見当たらない。中央には綺麗な球体の石が置かれ、その周りを、大きさがバラバラな石が円を描いて置かれているだけ。私が思い浮かべていた石碑のイメージとは、だいぶ違っていた。


「ここに……手を添えれば」


 ドクッ、ドクッと、大きな音を立て跳ね上がる心臓。

 ただ石に触れるだけだっていうのに、冷汗が出てきてしまう。

 ゆっくり。ゆっくりと手を伸ばす。まず指先が触れ、次に、手の平全体が石に触れていく。全体が触れしばらくすると――徐々に、手の平全体が熱を帯び始める。それは次第に熱さを増し、火傷するんじゃないかと思えるほど熱くなっていった。


「っ?! は、離れない?!」


 すぐに手を引いたのに、左手は、石碑から全く離れる気配がない。まるで石の一部になってしまったかのように、いくら動かしても無駄だった。


「なん、で!?――きょ、叶夜君! 先生!?」


 何度も必死に、二人の名前を呼ぶ。

 痛みと恐怖で涙していれば――ふと、背後に人の気配を感じた。


「っ、なんとかする、から!」


 駆け付けてくれたのは、叶夜君。大丈夫だからと宥めながら、必死に、私の手を引き離そうとしてくれていた。


「っ、……どう、なって?!」


 でも、叶夜君の力を持っても離れることはなく。痛みは、更に増していくばかり。

 このままじゃあ手が焼けてしまう。そう頭に過った瞬間、




『――フィオーレ?』




 頭に直接、声が聞こえた。それはとてもやわらかく、心地よささえ感じる。


「だ、……だ、れ?」


『フィオーレ。アナタモ、フィオーレ?』


 痛みで立てなくなった私は、その場に膝を付いた。

 声を出すのも辛くなり、私は心の中で声に答えた。自分は命華だと言うと、声は楽しげに笑い出す。


『ミツケタ。――デモ、ヨケイナノガイル』


「っ! 美咲っ!!」


 大きく名前を呼ばれ振り向くと、一緒にいたはずの叶夜君は、すごい勢いで後ろに弾き飛ばされてしまった。


「きょうや、くんっ……!」


 見えないほど遠くに飛ばされてしまい、ここからでは、叶夜君が無事なのを確認することができなかった。

 途端、左手から熱が消えていく。でも未だ、石から離すことはできなかった。


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