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「――ミツケ、タ」




 どこからか、二人とは別の声がする。

 途端、それまで見えていた光景は消え、辺りはいつも見ているのと変わらない町並みが目に入った。




「――ミツケ、タ」




 まただ。今度は、はっきりと聞き取れた声。周りを見るも、それらしいものは見つけられず、誰もその場にはいなかった。




 も、もしかして……。




 また、あの日と同じことが起きるんじゃないかと、不安が過る。

 声がしたと思ったら、今いる場所とは違う場所が見えて――。似ている状況に、逃げようと考えつくまで、時間はかからなかった。少しでも離れよう。ここから逃げようと、徐々に足を速めていった。




「――ミツケタ!」




 耳元で声がしたと同時。体に痛みが走り、何が起きたのかと困惑していれば、


「がっ?!…、っ……、、、!」


 気付いた時には、首を鷲掴みされていた。


「オレダケノ血! オレダケノモノ!!」


 そう叫ぶのは、血走った目をした男性。見知らぬその人に、私の体は勢いよく壁に押し付けられていて。そこまでされて、ようやく、逃げなきゃという考えが回り始めたものの――到底、男性に敵うはずもなく。


「大人シク、シロ!」


「っ!?……、、、…っ」


 暴れる私を、男性は更に強い力で首を締めあげていった。

 いきっ、が……!

 目に映るのは、怪しく笑う男性の姿だけ。次第に視界もぼやけていき、あの時のような、黒く深い闇に埋もれてしまいそうになる。


「アハハハッ! 血ダ。メイカノ、血ッ!!」


 微かに聞こえる声。それはとても、歓喜に満ちたものだった。

 本当にこの人……私が死ぬのを、喜んでるんだ。

 もう痛いとか、苦しいとかわからないほど。全ての感覚が鈍くなり、“私”という存在が曖昧になっていく――。




 こん、なっ……ところで。




 死にたくない。“死ぬわけにはいかない”と、消えかける意識が、“私”を奮い立たせる。




 終わることなんてできない。




 だって……だって私は。




『まだ――成し遂げてない!』




 強い意志を持った言葉。その声は、誰のものだったのか。

 私が思った気もするし、でも、声は私じゃないような気も――。


「赤イ……新鮮ナ血ッ!」


 ぐぐっと、一層強く締まる首。 

 かろうじて保っていた思考も薄れ、“死”という存在が大きくなった途端、




「――何してる!?」




 体は、地面へと放り出された。

 首にあった痛みが徐々に薄れ、ようやくまともに息が出来るようになった私は、肩で大きく息を吸った。


「っ!? ヤ、ヤメ、……ッ!?」


 近くで、声が聞こえる。

 呼吸を整えながら声の方を向けば――男性の首が、体から離れる瞬間を目にした。

 さっきまで、私の首を絞めていた男性の頭。ごとっ、と地面に落下すると、そのままどこかへ転がっていき、体は、崩れるように倒れていった。首からはとめどなく血が溢れだし、切り離した人物に、雨のごとく降りかかっていた。

 地面に広がり続ける、大量の血、血、血――。しばらくその光景を眺めていた私の脳は、ようやく、今の状況を認識し始めた。


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