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◇◆◇◆◇


 あれから数日。特に何もなく過ごせていた。

 そして今日は、昼から街に買い物に来ていた。いつもは一人だけど、珍しく友達と一緒に。


「ねぇ杏奈。ここ、入ってみよう!」


「わかったから、そんな急かさないで」


 一緒にいるのは、入学式の時から話しかけてくれた倉本さん。こうやって友達と遊ぶなんて無かったから、私はすごくはしゃいでいた。はしゃいでいるといっても、もちろん、長袖と日傘は忘れていない。クラスの人にはまだ敬語だけど、杏奈とはお互い名前で呼び合うほど、すっかり打ち解けている。

 ショッピングを終えた今、私たちはカフェに入り、ケーキを食べながら雑談を始めた。


「今度は、映画でも見に行こっか」


 雑誌を広げ、どうかな? と聞かれる。


「うん、行こう! 何がいいかなぁ?」


「ん~とりあえずは、来月あるコレなんてどう?」


 雑誌をめくり、杏奈が幾つかおススメの映画を選んでくれた。本当、こうして友達と遊べる日が来るなんて、すごく嬉しい。体調が悪くなっても、杏奈は変に気を遣わないから、私も気楽に接することができていた。


「じゃあ、来月はこれで――あ、ごめん電話」


 出るなり、杏奈の表情が変わる。何を話しているかわからないけど、明らかに面倒臭そうな様子なのは見てわかった。


「うん、うん――わかってるから! じゃあ、また後で」


 電話を終えると、杏奈は突然ごめん! と、私の目の前に両手を合わせ謝ってきた。


「急に、どうしたの?」


「えっと……今、親から連絡あってさ。迎えに来いって言われて」


「そうなんだ。じゃあ、ここでお別れだね」


「ホンっトにごめん! 家まで送るって言ったのに……」


「気にしないで。調子いいし、ちゃんと帰れるよ」


「それならいいけど……なにかあったら、すぐに電話してよ?」


「約束する。ほら、早く行ってあげないと」


「あ、うん。――じゃ、また学校でね!」


 自分のお代をテーブルに置くと、杏奈は急いでお店から出て行った。

 私もそれからすぐにお店を出て、夕暮れの道をゆっくりと歩いていた。いつもの丘に差し掛かると、ちょうど、夕日が沈んでいくのが見える。




 ――リン。




 どこからか、鈴の音が聞こえる。周りを見渡せば、塀の上から、一匹の黒猫がこっちを見ていた。


「――ニャ~」


 一声鳴くと、黒猫はぺこっと頭を下げ、足もとに擦り寄って来た。

 ふふっ、人に馴れてるんだ。

 しゃがみ込み頭を撫でてやれば、猫は嬉しそうに喉を鳴らす。


「気持ちいい?――あ。君の瞳、二色なんだね」


 猫の瞳は左右色が違い、とても綺麗な青と緑色をしていた。


「黒毛に青い瞳だと……ロシアンブルー、だっけ?」


 片目は緑だけど、見た目はそんな感じがした。

 いいとこの猫なのかなぁ~と思いながら撫でていれば、猫は嬉しそうにじゃれていたというのに――それまでの愛想は一変。何か気に入らないことがあったのか、急に、猫は袖に噛み付いてきた。


「っ?! い、いい子だから……離して、くれる?」


 なだめるように言えば、言葉が通じたのか、猫はあっさり噛み付くのをやめてくれた。


「――ニャ~ゴ!」


「?――何か、あるの?」


 塀に登るなり、すぐに歩きだしたものの、何度もこちらを振り向く猫。そのたびに鳴かれ、まるで、私を誘っているかのように思えた。


「着いて来い……とか?」


「ニャ~!」


 頷く猫。本当に言葉がわかっているかのように、私の言葉に対して反応を示してくれている。

 ……でも、またなにかあったら。

 数日前のことが、頭を過る。今一人でいるということが、私の中で警戒心を強めていった。


「――ニャ~」


 尚も私を呼ぶ猫。でも、やっぱり着いていくのは――。


「――ごめんね。私、もう帰らないといけないから」


 また今度ね、と言い、猫の頭を撫でる。

 後ろ髪を引かれながら、私は猫と別れることにした。途中振り返って見れば、猫は名残惜しそうに、ずっとこっちを見ている。

 あんなに懐いてくれるんだったら……もうちょっと、遊んであげればよかったかなぁ。そんなことを考えながら歩いていれば、空の色が、徐々に夜へ変わっていく。とても静かな時間が流れ、歩きながら沈む夕日を見ていた時、




「っ?!――ぁ、く」




 突然、酷い痛みが頭に走る。発作でも起きたのかと思っていれば――目の前に、あの世界の景色が見えた。




 赤い空に、青い月が輝く世界。

 そこには、見知らぬ誰かがいる。




 覚えなんてないのに、意志とは反して、その映像は流れ続けた。


『……、シエロ』


『大丈夫。私は、……』


 銀のように輝く、紅色をした髪の女性。

 その隣には、長い黒髪の男性がいる。




 この人たち……誰、なの?




 神妙な面持ちで、二人はなにかを話している。顔や話の内容まではわからないけど……なんだかそれは、とても大切なことのように思えた。


「…………なん、なのっ?」


 尚も続く痛み。思わず両手で頭を押さえ、私はその場にうずくまった。

 その間にも、断片的に見える景色。でも、覚えのあるものは見えなくて、全てが初めて見るものばかり。何を意味してるかなんてわらないまま、私はただ、この痛みが治まることだけを願っていた。


『いいのか? このままじゃあ、お前は■■ことに』


 このままだと……なんだって言うの?


『それに賭けるしかないの。これは、■■から決まっていたことだから――私は、■■■を継いでいるから』


『だからと言って……こんなこと』


 決まってた?

 それに、継いでるって……。

 どういうことなのか知りたいのに、肝心の部分になると、もやがかかったみたいに聞き取れない。わかるのは、二人の表情と周りの景色ぐらいで。今にも泣き出しそうな女性を見ていると、こっちまで泣いてしまいそうな気分になる。胸が苦しくて、もやもやして……言いようのない感覚が、体を包み込んでいった。


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