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人の世に戻った俺たちは、それぞれ別の場所にいた。
ミヤビとエメさんとシエロさんは、リヒトさんの家で治療を。蓮華さんと木葉さんは、華鬼が避難している場所に。そして俺は――美咲の家に来ていた。
『叶夜……すまぬが、美咲の家に行き、葵に会ってきてほしい』
こんな時に何故かと聞けば、大事なことだからと強く言われた。
『素直に行った方がいいんじゃない? 救った後に、おじいさんなんに何かありました、じゃ困るでしょ』
『叶夜さん、私からもお願いいたします』
木葉さんや倉本さんにも言われ、渋々ながらも行くことを承諾した。
呼び鈴を鳴らせば、男性はすぐにドアを開けた。
「蓮華さんから、伝言を預かってまいりました」
告げれば、男性は笑顔で俺を招き入れた。通された場所は和室。そこには仏壇があり、咲さんと思われる写真が飾られていた。男性は腰を下ろすと、俺にも座るようにと促された。
「木葉さん以外で、蓮華さんからの用事を伝えに来る方は初めてですなぁ」
「すみません、今は急いでいまして……」
「そうでしたな。あの子の為に動いておるというのに……余計なことをさせてすまんのう」
ふと、男性の表情に影が落ちる。
途端、自分が情けなくなった。
一人で焦って……。
周りだって、思っていることは同じなはず。それがずっと暮らしてきた者なら尚更。自分だけが悲しいわけじゃないんだと、深呼吸をし、気持ちを静めていった。
「――〝咲が、最後の挨拶に来た〟と。そう伝えるよう言われました」
「そうですか。――本当に、逝ってしまったんじゃなぁ」
仏壇に近付くと、男性は手を合わせる。しばらく拝んでいたかと思うと、徐に、下の方から何かを取り出した。
「聞いているかもしれんが、咲には少し、不思議な力がありましてね」
目の前に置かれたのは、両手で包めるほどの小さな風呂敷き。解かれると、中には小さな飴が入った瓶が収められていた。
「蓮華さんと同じく花を作れたことも珍しいようじゃが――少し、先を見通す力があったんですよ。もしかしたら、先祖返りかもしませんが」
「もしかして……華鬼というのは」
「御察しの通り。華鬼と呼ばれる者たちは、命華を祖先に持つようです。とは言っても、随分昔に人の世に来て生活をしているので、本来持っていた力は無いと聞いてますがね。代々、長となるのは花を作れる者。咲もその資格を持っておりましたが……まぁ色々あり、失ってしまいましてね。咲は、蓮華さんが受けた呪いの一部と、美咲を育てる罰を受けました」
「何故、育てることが罰に?」
「おそらく、蓮華さんなりの配慮ではないかと。呪いを受けた咲は、子を成すことができなくなりましたから。せめて、親となり育てる喜びを、とでも思ったのでしょう。あとは、人間の私と同じように体が衰えていきましたね。おかげで、私たちは同じ時を生きることができた。本当なら、自分の方が先に死んでいるはずだったというのに――おっと、これは余計な話じゃったか。
亡くなる前、咲が言っておりましてね。あの子には大きな災難が降りかかる。でもその時、自分たちには何もできない、とね」
「っ、……何も、出来ない」
彼女の為に、何か一つでも出来たことがあるだろうか?
今だけじゃない。過去だって……俺はずっと、間違ってばかりだ。
「そう落ち込みなさんな。ワシらには何もできないが――お前さんになら、できるそうじゃよ」
思わず、間の抜けた声が漏れた。
訳が分からない俺に、男性は瓶を差し出しながら言う。
「お前さんは、前世のあの子と繋がりがあるんじゃろう? その為には、まず今ある傷を癒し、過去の過ちを繰り返さぬようにせんとな」
聞けば、この飴はオレの為に作られたものらしい。これを食べれば、命の期限を気にしなくていいだけでなく、前世の記憶をしっかり思い出せると。
「辛くなったら食べなさい。最低でも、傷だけは完治すると折り紙付きじゃ」
受け取り礼を言えば、それから――と続きを付け足す。
「名前はわからんが……あの子の使い魔がおるんじゃろう? その子が道案内をしてくれるとも言っておった」
「わりました。――必ず、連れて帰ります」
静かに頷く男性。
それに俺も静かに頭を下げ、急ぎ、倉本さんがいる元へと向かった。




