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向こうの世界に着くなり、シエロはレフィナドの屋敷へ急いでいた。まだ彼が彼で居てほしいと願いながら走れば、レフィナドは、思った通りの様子だった。
「よかった。まだ、貴方はレフィナドのままなのね」
「シエロッ!? どうして戻って来た」
「ちょっとした予知。箱の処理は、彼等にはできないって見えたから。彼等は、まだ来てないの?」
「来ておれば、私はここにいない。――お前、あいつらより後に出たのか?」
頷くシエロに、レフィナドは眉をひそめる。
身体能力では、シエロよりもリヒトたちの方が高い。なのに彼女がいるということは――。
嫌な考え。そうあってほしくないと思うものの、シエロが先に来ていることを考えると、可能性が高くなる。
「シエロ、お前の予知ではリヒトたちはどうなる?」
「見えたのは……運んでるんだけど、戻せないって状況かしら?」
「ならば今、やつらは何らかの被害にあっているだろうな」
「ちょっと、いくらんでも――?」
箱を見て、シエロは違和感を覚えた。確かにそれは箱だが――何かが足りない。
「――――ねぇ、レフィナド」
真剣みを帯びた声に、レフィナドは身を引き締める。
「もしかしたら――彼女、ここから出たかも」
地面を蹴り、箱へ向かうシエロ。それを手にした途端――それは、跡形も無く消えてしまった。
「――――やっぱり」
「どういう、ことだ――?」
「私が出たから、抑えていたものが一気に溢れたのかもしれない……。だとしたら」
嫌な考えが、現実になろうとしている。
箱がここにないとなれば、行く当てはただ一つ。
「体を埋めた――命華の地」
急ぎ、レフィナドと共に外に出るシエロ。しかし――。
「っ、……さき、にっ」
レフィナドの息が荒くなる。その場に止まり、早く行けとシエロに叫ぶ。
「奴、がっ……」
出てくると言い、膝をついてしまった。
「……じゃあ、ここでお別れね。気休めかもだけど」
手の平を傷付け、レフィナドの口元にもっていく。
「ふっ……少し、は。抗える」
滲み出た血を舐めとる。
言葉を交わすことなく、二人は互いに、別の方向へ足を進めて行った。
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先頭を走り続けるエメ。彼女が向かっている方角は、目的の場所ではない。近くに敵の気配でもあるからかと気に留めなかった上条だが、
「――エメさん。これ以上は近過ぎます!」
呼びかけても反応が無い。もしや……と最悪の事態になる前に、上条はエメを取り押さえた。
「アナタは今、アナタの意思で動いていない」
「ちょっと、早く向かわないといけないんじゃ――?」
「ミヤビ――アナタなら、分かりますね」
眉をひそめエメを見る雅。しばらく黙っていたが、
「…………エメじゃ、ない」
口にした途端、エメは上条から逃げ出した。
いくら全力で押さえていなかったからといって、逃げられるほど弱くはない。
反応の無い彼女。
追い付けない早さ。
これら二つから見て、エメは体を奪われていると上条は判断した。だとすれば、彼女が向かう場所は一つ。
「彼女を何がなんでも止めなさい!!」
叫ぶと、上条は急いでエメを追う。それに続く二人は、今の状況が理解できてきない。
「何があったんですか?」
「一時的だと思いますが、体を奪われています」
「それって戻れるの!?」
「戻れます。――ですが、早めにエメさんを止めなければ、危険な状態になります」
力強く大地を蹴り、エメの前に出る。一瞬速度が遅くなったところを、叶夜と雅が抑えにかかる。そこへ今度は、上条がエメの手首を握り、手から箱を離させた。
「箱を離しなさい!」
すかさず、叶夜が箱に触れた。先程よりも拒絶は治まっているが、手から逃げようとする。なんとか両手で掴むと、後方へ箱を投げ捨てた。
――ドックン。
両肩を揺さぶり呼びかけるも、エメは相変わらず反応を示さない。
「気をしっかり持ちなさい! アナタには、遣り遂げることがあるのでしょう!?」
――ドックン。
「エメ……どうしたんだよ。答えてくれよ!」
雅もエメに呼びかける。すると、微かに反応するのを見逃さなかった上条は、雅にエメを抱えさせた。
そして、応急処置だと、エメの口に一つの薬を含ませる。
「キョーヤ、箱は運べますか?」
「……おそらく」
少し触れただけで、皮膚がむき出しになっている。いくら再生することができるといっても、体力の消耗が激しい。
――ドックン。
「――リヒトさん。さっきから聞こえるこの音、何ですか?」
「音? 私には何も聞こえませんが」
――――ドックン。
「やはり聞こえます。これは一体……」
叶夜にのみ聞こえる音。
エメといい叶夜といい、箱に触れられる二人に異変が起きているのは、あまりいい状態とはいえない。
「俺を――呼んでいる?」
呟くと、何処からともなく、断末魔の叫びが響き渡った。




