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*****


 向こうの世界に着くなり、シエロはレフィナドの屋敷へ急いでいた。まだ彼が彼で居てほしいと願いながら走れば、レフィナドは、思った通りの様子だった。


「よかった。まだ、貴方はレフィナドのままなのね」


「シエロッ!? どうして戻って来た」


「ちょっとした予知。箱の処理は、彼等にはできないって見えたから。彼等は、まだ来てないの?」


「来ておれば、私はここにいない。――お前、あいつらより後に出たのか?」


 頷くシエロに、レフィナドは眉をひそめる。

 身体能力では、シエロよりもリヒトたちの方が高い。なのに彼女がいるということは――。

 嫌な考え。そうあってほしくないと思うものの、シエロが先に来ていることを考えると、可能性が高くなる。


「シエロ、お前の予知ではリヒトたちはどうなる?」


「見えたのは……運んでるんだけど、戻せないって状況かしら?」


「ならば今、やつらは何らかの被害にあっているだろうな」


「ちょっと、いくらんでも――?」


 箱を見て、シエロは違和感を覚えた。確かにそれは箱だが――何かが足りない。




「――――ねぇ、レフィナド」




 真剣みを帯びた声に、レフィナドは身を引き締める。




「もしかしたら――彼女、ここから出たかも」




 地面を蹴り、箱へ向かうシエロ。それを手にした途端――それは、跡形も無く消えてしまった。


「――――やっぱり」


「どういう、ことだ――?」


「私が出たから、抑えていたものが一気に溢れたのかもしれない……。だとしたら」


 嫌な考えが、現実になろうとしている。

 箱がここにないとなれば、行く当てはただ一つ。




「体を埋めた――命華の地」




 急ぎ、レフィナドと共に外に出るシエロ。しかし――。


「っ、……さき、にっ」


 レフィナドの息が荒くなる。その場に止まり、早く行けとシエロに叫ぶ。


「奴、がっ……」


 出てくると言い、膝をついてしまった。


「……じゃあ、ここでお別れね。気休めかもだけど」


 手の平を傷付け、レフィナドの口元にもっていく。


「ふっ……少し、は。抗える」


 滲み出た血を舐めとる。

 言葉を交わすことなく、二人は互いに、別の方向へ足を進めて行った。


 *****


 先頭を走り続けるエメ。彼女が向かっている方角は、目的の場所ではない。近くに敵の気配でもあるからかと気に留めなかった上条だが、


「――エメさん。これ以上は近過ぎます!」


 呼びかけても反応が無い。もしや……と最悪の事態になる前に、上条はエメを取り押さえた。


「アナタは今、アナタの意思で動いていない」


「ちょっと、早く向かわないといけないんじゃ――?」


「ミヤビ――アナタなら、分かりますね」


 眉をひそめエメを見る雅。しばらく黙っていたが、




「…………エメじゃ、ない」




 口にした途端、エメは上条から逃げ出した。

 いくら全力で押さえていなかったからといって、逃げられるほど弱くはない。

 反応の無い彼女。

追い付けない早さ。

 これら二つから見て、エメは体を奪われていると上条は判断した。だとすれば、彼女が向かう場所は一つ。


「彼女を何がなんでも止めなさい!!」


 叫ぶと、上条は急いでエメを追う。それに続く二人は、今の状況が理解できてきない。


「何があったんですか?」


「一時的だと思いますが、体を奪われています」


「それって戻れるの!?」


「戻れます。――ですが、早めにエメさんを止めなければ、危険な状態になります」


 力強く大地を蹴り、エメの前に出る。一瞬速度が遅くなったところを、叶夜と雅が抑えにかかる。そこへ今度は、上条がエメの手首を握り、手から箱を離させた。


「箱を離しなさい!」


 すかさず、叶夜が箱に触れた。先程よりも拒絶は治まっているが、手から逃げようとする。なんとか両手で掴むと、後方へ箱を投げ捨てた。




 ――ドックン。




 両肩を揺さぶり呼びかけるも、エメは相変わらず反応を示さない。

「気をしっかり持ちなさい! アナタには、遣り遂げることがあるのでしょう!?」




 ――ドックン。




「エメ……どうしたんだよ。答えてくれよ!」


 雅もエメに呼びかける。すると、微かに反応するのを見逃さなかった上条は、雅にエメを抱えさせた。


 そして、応急処置だと、エメの口に一つの薬を含ませる。


「キョーヤ、箱は運べますか?」


「……おそらく」


 少し触れただけで、皮膚がむき出しになっている。いくら再生することができるといっても、体力の消耗が激しい。




 ――ドックン。




「――リヒトさん。さっきから聞こえるこの音、何ですか?」


「音? 私には何も聞こえませんが」




 ――――ドックン。




「やはり聞こえます。これは一体……」


 叶夜にのみ聞こえる音。

 エメといい叶夜といい、箱に触れられる二人に異変が起きているのは、あまりいい状態とはいえない。




「俺を――呼んでいる?」




 呟くと、何処からともなく、断末魔の叫びが響き渡った。


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