表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
134/189

.


「よう、やく――。アナタに、触れることが出来た」


「――何か、忘れてませんか?」


 腕を緩め、顔を見合わせる。するとシエロは、名前ですよ、と言い笑みを見せた。


「呼んで下さい。それが、今一番の願いです」


「では――アナタも、呼んでいただけますか?」


「当たり前です。ようやく会えた。ようやく――リヒトに触れられた」


 とても嬉しそうに、明るい声でシエロは言った。


「私も同じです。こうして再び――シエロに触れることを、何度も夢見ていました」


 愛おしそうに、ゆっくと、上条は口にした。

 こんな些細なことも、二人には容易ではなかった。

 触れること。

 名前を呼び合うこと。

 どれが互いを傷付ける要因になるか、その時で違っていたのだから。




「今触れることが出来るのあれば――これも、許されるのでしょうか?」




 上条の指が、シエロの唇に触れる。

 戸惑いながらも、シエロはおそらく……と、俯いて答えた。


「顔を見せて下さい。――再びきたこの瞬間を、逃すわけないでしょう?」


 顎を持たれ、上を向かされるシエロ。その視線の先には、やわらかく、けれども妖艶な雰囲気の上条がいた。


「やっぱりその瞳は――綺麗です」


「シエロだけですよ。私を恐れず、そのような言葉をくれるのは――」


 どちらからともなく、互いに距離を縮めていく。




 そして――ゆっくり、触れるだけの口付けが落とされた。




 ほんの数秒。けれどそれは、二人にとって、今まで会うことの出来なかった時間を埋めるほどのものだった。




「では――行って来ますね」




 屋敷の入口まで行き、シエロは三人を見送った。

 三人の気配が消えると、シエロは自分の部屋に戻った。途端、崩れるようにその場に膝を付いた。両手で顔を覆い、目から溢れ出る涙を拭っていた。

 これは、体に異常が起きたわけではない。ましてや、彼等が無事に戻ってほしいという願いや不安からではない。これから自分が行うこと。上条に向けての――懺悔の涙を流していた。


 ◇◆◇◆◇


 体が、自分のモノでなくなる感覚がする……。

 フェリスに触れられた左手が、段々と、別物に感じ始めた。




『ワタシには力がある。だから、ワタシなら終わらせられる。――でも、アナタには何もない』




 ……ぞくっ。




 じわじわと、手が同化していく。左手だけでなく、腕の感覚も鈍くなる。




 確かに自分はなにもできない。

 だけど……みんなを護りたい。




 恨むことで、この状況が改善するの?




 そんなはずはない――。

 もうこれ以上、誰にも傷付いてほしくない。




 この気持ちだけは……間違ってない!




「――――まもっ、る」




 その声に、フェリスは動きを止める。様子をうかがい、フェリスはゆっくりと言葉を発する。


『何も出来ない、ましてやただの命華に、何があるの? 何も無いから、ワタシをたよっ』


「だったら要らない!」


『っ!?』


 叫んだと同時。周りに、強風が吹き荒れた。フェリスは後ろへ飛ばされ、自分から引き離された。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ