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「よう、やく――。アナタに、触れることが出来た」
「――何か、忘れてませんか?」
腕を緩め、顔を見合わせる。するとシエロは、名前ですよ、と言い笑みを見せた。
「呼んで下さい。それが、今一番の願いです」
「では――アナタも、呼んでいただけますか?」
「当たり前です。ようやく会えた。ようやく――リヒトに触れられた」
とても嬉しそうに、明るい声でシエロは言った。
「私も同じです。こうして再び――シエロに触れることを、何度も夢見ていました」
愛おしそうに、ゆっくと、上条は口にした。
こんな些細なことも、二人には容易ではなかった。
触れること。
名前を呼び合うこと。
どれが互いを傷付ける要因になるか、その時で違っていたのだから。
「今触れることが出来るのあれば――これも、許されるのでしょうか?」
上条の指が、シエロの唇に触れる。
戸惑いながらも、シエロはおそらく……と、俯いて答えた。
「顔を見せて下さい。――再びきたこの瞬間を、逃すわけないでしょう?」
顎を持たれ、上を向かされるシエロ。その視線の先には、やわらかく、けれども妖艶な雰囲気の上条がいた。
「やっぱりその瞳は――綺麗です」
「シエロだけですよ。私を恐れず、そのような言葉をくれるのは――」
どちらからともなく、互いに距離を縮めていく。
そして――ゆっくり、触れるだけの口付けが落とされた。
ほんの数秒。けれどそれは、二人にとって、今まで会うことの出来なかった時間を埋めるほどのものだった。
「では――行って来ますね」
屋敷の入口まで行き、シエロは三人を見送った。
三人の気配が消えると、シエロは自分の部屋に戻った。途端、崩れるようにその場に膝を付いた。両手で顔を覆い、目から溢れ出る涙を拭っていた。
これは、体に異常が起きたわけではない。ましてや、彼等が無事に戻ってほしいという願いや不安からではない。これから自分が行うこと。上条に向けての――懺悔の涙を流していた。
◇◆◇◆◇
体が、自分のモノでなくなる感覚がする……。
フェリスに触れられた左手が、段々と、別物に感じ始めた。
『ワタシには力がある。だから、ワタシなら終わらせられる。――でも、アナタには何もない』
……ぞくっ。
じわじわと、手が同化していく。左手だけでなく、腕の感覚も鈍くなる。
確かに自分はなにもできない。
だけど……みんなを護りたい。
恨むことで、この状況が改善するの?
そんなはずはない――。
もうこれ以上、誰にも傷付いてほしくない。
この気持ちだけは……間違ってない!
「――――まもっ、る」
その声に、フェリスは動きを止める。様子をうかがい、フェリスはゆっくりと言葉を発する。
『何も出来ない、ましてやただの命華に、何があるの? 何も無いから、ワタシをたよっ』
「だったら要らない!」
『っ!?』
叫んだと同時。周りに、強風が吹き荒れた。フェリスは後ろへ飛ばされ、自分から引き離された。




