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「――――気が付いた?」
目を開ければ、そこには見知らぬ人がいた。
髪が紅色をした、桜色の瞳をもった女性。
やわらかな笑みを浮かべながら、自分の頭を撫でる。
「だいたいは髪色が変わるんだけど、あなたは瞳も変わるみたいね。とりあえず、今は半覚醒って状態ね」
まだ……半分なんだ。
「覚醒する時は、痛みを伴うんですね」
「そんなに痛かったの?」
「はい――。髪が伸びて、瞳が変わった途端、心臓が激しく高鳴って。しゃべれないほどの痛みに、襲われました」
「そう。やっぱり、覚醒の時は痛いのね」
「? あなたも――ですか?」
「そうよ。私も命華で――赤の命華」
初めて見た。もう、命華は日向美咲以外にはいないという知識しかなかったから。
「もしかしたら――あなたも、私と同じになるかもしれないわ」
「同じ――ですか?」
「えぇ。だって、あなたは私の子どもだから」
なら、彼女は日向美咲の――。
「母親、なんですか?」
「そうよ。私はシエロ。こうして会うのは、生まれて初めてよね」
「……すみません」
自分は、ただの模倣だ。
彼女が思うような者は、もうここにはいない。
だから自然と、彼女に謝罪の言葉を口にしていた。
「謝ることないのよ? 私は過去に――もう、美咲と出会っているから」
「過去に――ですか?」
「そうよ。私には、未来を見る力がある。だから、あなたが今美咲とは違うってこともわかってるわ。私のこの力と、あなたが持っている力――美咲には、過去を見る力があるの。それがあるから、私たちは会うことができた。あなたは覚えていないでしょうけど、ちゃんと、娘と話すことはできたわ」
「それはよかった。でもすみません、ちゃんとした形で会うことができなくて」
「いいのよ。だってこれは、あの子が自分で選んだ結果だもの。――私にも、似たようなことが起きたから、よくわかるわ」
両手を胸に当て、シエロさんは目をつぶる。
「謝るのは私の方よ。本当なら、あなたにこんなことさせないようにって、箱ごと封印することを選んだのに――結局、あなたを巻き込んでしまった」
ゆっくり目を開けると、本当にごめんなさい、とシエロさんは自分の両手を握った。
「でも安心して。箱の処理は、私がまたやっておくから」
「それって――また、自分ごと封じるってことなんじゃ」
「おそらく、それしか無いと思うの。これじゃあまた、リヒトを一人にしちゃうわね。――本当、悪いと思うわ」
「自分にも――何か、できないんでしょうか?」
体を起こし、シエロさんに問う。
「あなたが覚醒すれば、もしかしたら、私以上の力が現れるかもしれない。でも、箱はすぐに処理しなければ、また大変なことが起こるわ。残念だけど……あなたの覚醒を待ってる時間は無いの」
「どうして、箱を処理しなければならないんですか?」
「本来の場所から持ち出された箱は、収めた呪いを放出しはじめるの。箱自体が凝縮された呪いで、あれを放置していたら――彼女が、目覚めてしまう」
言葉を詰まらせながら、シエロさんは続きを話してくれた。
あの箱は、命華の始祖である女性そのもの。自分を生贄とし封印することで、呪いは終息を見せた――はずだった。
だが人々は、あろうことか彼女と交わした約束を破った。命華を虐げる時代が続き、それに生き残った命華たちが、彼女の蘇生を試みた。元々死んではいなかったようで、彼女は再び、人々の前に現れた。しかし、その影響で彼女の体は、呪いにより蝕まれていった。
このままでは、自分が仲間を殺してしまう――。
だから、彼女は自分を分けることにした。
心を箱に封じ。
血は水に流し。
体は地に埋めた。
そうして、彼女は己の全てを捧げた。
心に呪いを。
血は人々に癒しを。
体は大地に癒しを。
残る力は命華に与え、彼女は息を引き取った。
「私がいた時代でも、似たようなことがあったの。彼女を再現させようと箱が持ち出され、赤の命華である私の血が使われた。
そして――彼女が現れたの。でもそれは、亡霊のような存在に近いわ。人のカタチをした影で、箱からたくさんの呪いが放出された。呪いが封じられた心だけでは不十分だったのか、それとも完全に、心が取り込まれてしまったのかはわからないけど……彼女は確実に、あの世界を壊そうとしていた。普通に考えたら、一人で何十という思念や、他の呪いを背負うなんて無理があるのよ」
「でも――その無理なことを、シエロさんもした」
「っ! それは、そうだけど」
「確かに、無理があることだと思います。でもシエロさんは、それが最善だと思ったんですよね? きっと――彼女も、そうだったと思います。自分も、それが間違ったことだとは思いません。それでみんなを救えるのなら――その手段を選ぶ」
「――そう、ね。護りたいって思ったら、やれることは全部やるだろうし。でも、だからって無茶をしたらダメよ?」
「それは、シエロさんにも言えます。あなたが日向美咲の親なら、自分はあなたも護る。だから、あなたも無茶はしないで下さい」
「あらら。まさか娘にお説教されるなんて」
それまでの雰囲気は和らぎ、笑みを見せる。
「これは――説教になるんですか?」
「レンのに比べたら軽いわ。気を付けてね? レンってば、実は結構根に持つ」
「誰が根に持つだと?」
「ひゃっ!? レ、レン、マナー違反!」
「何がマナーだ。人の悪口を言ってたやつにそんな資格はない。ほら、部屋で休んでろ」
「わ、わかったから、抱えるのはやめて!」
「聞く耳持たん」
「レンの鬼~!」
「あぁ、私は鬼だ」
――まるで、嵐が去ったように。
部屋は、一気に静けさを取り戻していた。
とりあえず――半分覚醒したのなら、自分の血は、更に質がよくなったんじゃないだろうか?
「――――二人にあげよう」
再び横になり、体を休めた。
少しでも体力を回復して、二人に多くあげることのできるようにと。




