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「契約は、何人としてもいいんですか?」


「この契約はね。ま、本式のはダメだけど」


「本式――。他にもやり方が?」


「そ。キョーヤとしたのもちゃんとしたものだけど、本式と言われるのはもっと強いものなんだよね」


 強いもの?

 なら、そっちの方が都合いいんじゃ。


「どうして、そっちをしないんですか?」


「ん~。しない、って言うより、【できない】んだよ。これにはお互いの心からの同意。そして、心を交換する必要がある。交換には、お互いを思い合うことが条件だから」


 思い合うことが条件?

 それぐらいなら、自分にもできると思うけど。


「ここで言う互いを思うは、普通のじゃダメ。――ま、ようは夫婦になります、ってことだと思って」


 そういうことなら、確かに自分にはできなさそうだ。

 そもそも、今自分が思っている相手を思う気持ちも、みんなを護りたいという思いからくるもので、

その者単体に抱く感情は、正直言ってない。


「自分にそれができないのは、よくわかりました。あともう一つ、気になることが」


「オレが答えられるものならどーぞ」


「一つ目の誓い、ってことは、二つ目も存在するんですよね? さっき、叶夜が三つの誓いすべてを捧げるって」


「そうだよ。一つ目は力を。二つ目は体の自由を。三つめは魂を。主従関係を結んだ相手に委ねるものなんだ」


「本式よりも、三つの誓いを全てする方が大変そうですね」


「まぁこれも本来は、王族と騎士が交わすようなものだったらしいしね。他に聞きたいことは?」


「いいえ、大丈夫です――普通の契約を、しましょうか」


 なんとか上体を起こし、前のめりになりながら体を支える。すると横にいる雅から、お、いい眺め~と、明るい声が耳に入った。


「いい眺め――?」


 なんだか、背中が涼しい。何故かと思い自分に視線を向ければ――着ていたはずの上着がない。


「さすがに着替えさせるのは悪いかなぁ~って思って、そのまま寝かせてたんだよね」


 そういえば……服、破かれたんだっけ?

 気にせず契約をと言えば、何故か雅は意外そうな表情を浮かべた。


「えっ、と……。恥ずかしくないの?」


「特には。――おそらく、そういったものも消えてしまったんだろうと」


「これはこれで嬉しいけど――(あたふたしてほしいんだよなぁ)」


 ごにょごにょと、聞き取れないなにかと言っている。しばらく黙って様子を見ていたが、長くなりそうなので、契約をしませんか? と、声をかけた。


「ごめんごめん。じゃあ、左手かして?」


 右手で体を支え、左手を差し出す。手を取ると、雅は目を閉じ深呼吸をする。そして目を開けると、真剣な眼差しを向け、言葉を紡ぎ始めた。




「一つ目の誓い、二つ目の誓い、そして、三つ目の誓いを、日向美咲に――我が真名を彼の者にさらす」




 もう一度、目を閉じ深呼吸をする。

 自分を見る瞳は、徐々に淡い光を放っていく。




「我が真名はエル・スウェーテ。今この時より、我は彼の者に三つ全ての誓いを行う。――許しを、いただけますか?」




 静かに、肯定の言葉を口にする。

 そして叶夜同様、雅も左手に血文字を記していき――そっと、唇を落とした。


「これで、契約完了。エルの意味は願う翼。これで美咲ちゃんは、オレに命令できるってこと」


「?――――これは」


 笑みを浮かべたと思ったら、顔が近付いて。


「スキンシップってやつ」


 何故か、額に唇が触れていた。


「そのカッコ見たら、我慢できなくてね。――そーいう隙は、男に見せるもんじゃないよ?」


 この姿に隙?――あぁ、そっか。

 こういう姿は、発症していなくても欲情させてしまうというわけか。


「――すみません。これから気をつけます」


「ま、オレだけに見せてくれるっていうなら大歓迎だけど。――こーいうのは、大事な人限定」


 覚えておきな、と言い、ぽんっぽんっ、と頭を撫でられる。

 わからない言葉もあるけど、とりあえず今は服を着よう。動けないので、雅に頼みクローゼットから適当に選んでもらったものに袖を通した。


「そろそろ休みな。契約の疲れだけじゃなく、血も減ってるんだし」


「さっきよりは、大丈夫のようです。――雅は」


 血が、欲しくないのだろうか?

 気になって聞けば、雅は間の抜けた声をもらした。


「だって、今もらったりなんてしたら……」


「少量であれば、ですけど。あとは寝るだけなので、気を失っても大丈夫ですから」


 発作が起きる前に、少しでも血があった方がいいんじゃないかと思い提案すると、雅は目を丸くしていた。




「――――お人好し」




 小さく発した言葉は聞こえず、何を言ったのかと思えば、




「遠慮なく吸っちゃうけど――ホントにいいの?」




 妖艶な笑みを浮かべ、雅が間近に迫っていた。


「少量だというのを守れるなら」


「わかってるって。んじゃ、やわらかい部分を――」


 首元にくると思い、噛まれていない方の首を見せる。――しかし、感触があったのは、首とは別の部分。


「――――っ、ひゃ!?」


「あ、感度はいいんだ?」


 再び、噛まれる感覚がする。


 首にくると思っていたのに、噛まれたのは耳たぶだった。


「ちょっ、……な、にっ」


 血を吸うだけでなく、くちゃっという音と共に舌の感触がする。徐々に血を吸うことより、そちらの方が主になっている気がする。


「み、やびっ……遊ばない、で」


「あははっ。ごめんごめん」


 ようやく、雅が離れた。

 なんだか余計、疲れが出てきたような気がする。

 目蓋が重くなり、話すのも億劫になってきた。


「んじゃ、そろそろ帰るね」


「気を、つけて――…」


 意識が遠退き、まともに挨拶ができない。そんな自分に、雅は再び頭を撫でながら、何か言っている。




「アンタのこと――嫌いじゃないよ」




 言葉も聞き取れなくなり、意識は、そこで完全に落ちていった。


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